第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

 奇跡と言霊の能力開発チームの担当者は、首相に研究結果を報告した。
「奇跡の力を弾頭に詰めて発射する実験は成功です。改良の余地はありますが、不可能ではありませんでした。しかし奇跡使いは聖職者のため、軍事利用に反対しております。軍事開発をするには聖職者ではなく軍事開発専用の奇跡使いを独自に教育し、兵器の生産と実験を重ねる必要があるでしょう。また、言霊を録音して使用する実験も成功です。人間の耳に感知しないレベルでも言霊は発動することが確認されました。しかし、こちらも聖職者のため、軍事利用に協力するのは反対しています。言霊使いも専門の人員を教育する必要があるでしょう」
 首相は担当者に一つ疑問を投げかける。
「新人の能力者をどうやって募る?また、その指導者はどうやって、どこから連れてくるのだ?」
 担当者はしばし黙考した。そして、一つの提案をする。
「新しく能力者として独立したものがいないか、各事務所にアンケートをさせましょう。その中から国の能力開発に協力する者に声をかけるのです。そして、魔術で判断力を失わせるまじないをかけ、軍事開発に協力させましょう」
「できるのか?」
「今回招集したメンバーには既に感づかれています。地方の小さな事務所に声をかければ金欲しさに集まるのではないかと」
 ふーむ、と首相はあご髭を撫でた。
「よし、可能であればやってくれ。人数は任せる。研究所が必要なら作らせよう」
「では研究所の建設と同時進行で能力者を教育し、プロジェクトを進めましょう」
 担当者は一礼すると、部屋を後にした。
 首相は担当者がまとめてきた資料に目を通し、この研究結果をどう軍事利用するか思案した。
 ”災厄の弾頭””言霊のカセットテープ”か……。うまく利用すれば最強の軍団が生まれる。カセットプレーヤーの小型化、ミサイルの遠距離攻撃、改良する余地は沢山ある。
「急がなければな。私の任期が終わるまでに一定のレベルまで開発し、後任に託さなくては。私にできるのは、与党の支持率を下げないことだけだな」
 首相はあくまでも平和主義の首相である表の顔を崩したくなかった。実際に手を汚すのは後任の首相でいい。自分は綺麗に身を引いて、平和な国に亡命して余生を過ごせればそれでいい。果たしてそううまくいくであろうか。
 ブルギス国はその後20年にわたって軍事開発を水面下で続けることになる。世界は着実に世界大戦へと向かっていた。
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