第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

 一方言霊使い達はカセットテープに言霊を封じ込める研究を行っていた。効果はすぐに出た。言霊はカセットテープで再生しても発現するのである。
「愛の古霊アマーレよ、傷つき病めるコルプスをを癒し給え」
 カチッ。と音を立てて録音を止める。刃物で指を切ってみせたベルが、頷いて合図を送る。テレサは再生のスイッチを押した。
『愛の古霊アマーレよ、傷つき病めるコルプスを癒し給え』
 カセットプレーヤーのスピーカーから、生の言霊より幾分弱々しい言霊のリボンが踊り、ベルの指先の傷を癒した。
「凄い……!完璧ではないけれど、ある程度の効力がありますよ」
 ベルの傷は傷跡を残す形で治癒していた。一同は感嘆の声を上げる。
「国の担当者に報告しましょう!」
 国の担当者はカセットプレーヤーから発現する言霊の力を確認すると、できるだけたくさんの言霊をテープに録音しておくよう言い残して立ち去った。
「できるだけたくさんって……、人を殺すような言霊は無理ねえ。死人をむやみに増やせない」
 ミルドレッドが思案していると、とある言霊使いが提案した。
「言霊グッズに使うようなお守り程度の言霊はいろいろ詰め込んでみたらどうかしら。そのテープを売ればいいんだわ。これから楽になるし、テープなら高く売れるじゃない」
 テレサがそれに苦言を呈する。
「このテープは無限に同じものを増やすことができます。一度言霊そのものを売ったら、素人が簡単に複製して、言霊使いの仕事はなくなりますよ」
 確かにその通りだ。効果が抜群であるがゆえに、これそのものを販売するのは危険だ。言霊使いは小さくなって口をつぐんだ。
「まあ、実験に使うなら、お守りの言霊ぐらいがちょうどよかろう。片っ端からいろいろ封じ込めておこう」
 アレキサンドライトの鶴の一声で、言霊使い達は順番に言霊をテープに録音していった。

 日を改めて、国の担当者が姿を現した。今度の研究テーマは音楽や雑音と同時録音しても力が発現するか、であった。国の担当者は音楽プレーヤーをもう一台用意し、多重録音をさせた。
 これも問題なく力が発現する。ならば、極力音を絞った場合はどうなるか。限りなく遅い再生速度で再生しても力が発現するか。逆に早送りでも、逆再生でも、力が発現するのかどうか。国の研究機関は様々な録音機器を用意し、あらゆる方法でテープレコーダーの言霊の力の現れ方を研究した。
 ついに研究者たちは、人の耳に届かないレベルまで音声を加工し、言霊の力が通常通り発現する音声テープを作り上げた。
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