第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

 さらにその翌日、担当者は奇跡使い達の前に科学者と魔術師を連れてきた。
「テルハ研究所のクラークソンです。今回は皆様の奇跡の力に、科学の知識を応用できるよう、微力ながらお手伝いいたします」
「魔術師のネツァクだ。よろしく頼むよ」
 奇跡使い達は軽く会釈した。皆この国の手先に惑わされまいと無意識に腕組みをする。威圧的な奇跡使い達の態度に、クラークソンはにこやかに微笑んだ。
「まあまあ、皆さん。しばらく一つのプロジェクトに関わるのです。仲良くしましょう」
 クラークソンが握手を求めたが、誰一人として手を差し出す者はおらず、彼は気まずそうに手を下した。

「まず、我々の研究では、奇跡で使役する神は科学で解明できるということが証明されております。奇跡使いは念導力で微弱な波動を発生させるということが確認されています。例えば炎の神ですが、奇跡使いはこの波動によって物体や空気中の分子を動かし、熱エネルギーによって炎を発生させます。雷の神についても同様のことが言えます。風の神は大気の分子を波動によって動かし、風を起こします。この風の神のコントロールによって気温を上げたり下げたりしているのですね。全ての奇跡は奇跡使いの念導力による分子の運動で説明が付きます」
 クラークソンが奇跡の秘密について科学的に論破した。奇跡使い達にとって、奇跡はあくまでも超自然の神の力だ。いわば一つの信仰の力だ。奇跡使い達はイメージの力でこの力を動かしていた。科学的に解明できるような簡単な力ではないと信じたかった。だが、波動や分子といわれてしまうと、核心を突かれたようで反論できない。
「それで、この奇跡が科学だというなら、我々はどうしたらいいというんだ?」
 信仰に厚いジャッジメントがクラークソンに厳しい目を向ける。
「そこで魔術が必要になるのです。はい、ネツァクさん」
 クラークソンがネツァクにバトンタッチする。
「化学を魔術で固定する力は今は明かせん。だが、魔術は物質化した能力を封印する。化学を行使するには原料が必要になるから、奇跡使いにはその原料を作り出してほしい。”奇跡”の力を使ってな」
 ネツァクの言い分は、まるで奇跡使いが金の卵を生むガチョウのような口ぶりだった。テンパランスは都合よく扱おうとするネツァクに反論した。
「奇跡の力は無限じゃないのよ?!それに、何?化学ですべて解決できるですって?傷を癒すのも科学で解決できるなら、もっとこの世は便利になってるはずじゃない?奇跡の力を甘く見ないで!」
 クラークソンが苦笑交じりになだめた。
「落ち着いてください、ですから、これからそういう便利な世の中にしていくんじゃないですか。我々の研究では、科学で生命を生み出すことも不可能ではないという仮説が立っています。一緒に奇跡について研究しましょう」
 生命を生み出すことも不可能ではない。この言葉に奇跡使い達は仰天した。奇跡で生き物の生死にかかわる力を使うのは禁忌である。それが科学を使えば可能になるだと?そんなことが実現したら本物の奇跡だ。奇跡使い達の心は揺れ動いた。科学の力、侮れないかもしれない。
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