第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

「困ったわね……」
 言霊使い達も頭を抱えていた。言霊を固定など、できるのだろうか?
「書いた文字は言霊になるんでしょうか?」
「貴方言霊を紙に書いて力が発現したことある?」
「無いですね……」
 言霊は言葉が摩訶不思議な力を持つ物だ。奇跡使いのように神の力を操ってイメージで形にする力ではない。古霊という高次の存在の機嫌を取り、願うものである。操っているわけではない。お伺いを立てて、力を借りているに過ぎない。
 ミルドレッドが助言した。
「紙に書いた言霊が全く力を持たないわけじゃないわ。言霊グッズを皆さん販売してると思うけど、あれも一定の効果が確認されてる。まあ、火が出たり嵐を起こしたりなんてことはできないけどね。でも、アマーレの回復の言霊を紙に書いて持っていると病気の直りが速くなるという研究結果もあるわ。気休めだけどね」
「それで納得してもらえるのかしら……?」
 若い言霊使いは頭を抱えた。皆薄々気が付いている。自分達は兵器開発をさせられているのだと。言霊使いという職業の特性として、大部分は呪殺の依頼である。殺すためにある力のようなものだ。アレキサンドライトが口を開いた。
「20年前も、30年前も、50年前も、世界では言霊と奇跡が戦争の道具にされてきた。皆は若いから知らんかもしれんが、儂も過去に三度戦場を駆け巡ったものよ。50年前の大戦ではまだ15歳じゃった」
 一同が驚く。50年前に15歳ということはアレキサンドライトはこの老体でまだ65歳……?
「アレキサンドライト様、そんなお年なんですか?お若く見えますが……」
 無論これは世辞だ。計算よりだいぶ老年に見える。
「儂はこう見えても79じゃ!来年の夏には80じゃよ!50年前の大戦は正確には56年前じゃ。8年間という長い大戦じゃったのじゃよ。苦しい時代じゃった」
 一同は見た目通りの年齢に安堵した。あまりにも鯖を読みすぎだからだ。
「ということは、これからも10年ほど続くような戦争が起きないとも限らないわけですね」
「この国は戦争好きじゃからのう。能力者の力など鉄砲玉の一つとしか考えておらんのじゃ」
 だが、傷を癒したり蘇生できたり、超自然の力を操る能力者が戦場で重宝しないわけがない。弾数の限られている銃や、接近しないと使えない刀剣、無差別に破壊する爆弾より、自由自在に扱える奇跡や言霊の力があったら、戦争に使うのが道理だろう。
「じゃが、言霊の力を固定して誰でも使えるようになったら、確かに楽になるかもしれん。戦争に駆り出されずとも、言霊兵器が戦争で戦ってくれるからのう」
 一理あるか。だが、言霊だけで力を固定する方法は無理がある。言霊を封じ込めておく媒体がなければ持ち出すことは不可能だ。
「……あ!」
「テレサ?」
 アレキサンドライトの弟子のテレサが何かを思いついた。
「最近発売されたカセットテープ。あれに言霊を録音させたら力が無限に使えないかしら」
「カセットテープ?」
 今世間ではレコードよりもコンパクトで持ち歩きできる、カセットプレーヤーが大流行している。場所も取らず、誰でも録音と再生が手軽にできると、商店街の電気屋では品切れが続いている。
「私、録音も再生もできるテープレコーダーを先日のお給料で買ったんです。ホテルにも持ってきてます。あれを使ってみたらいかがでしょう?」
「カセットか……。確かに出たばかりで、まだ誰も試していないですね」
 ベルがカセットに可能性を見出した。試してみる価値はある。
「明日持ってきてみますね!」
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