第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

「どうする……?」
 奇跡使い達は頭を抱えた。奇跡を固定することなど……。
「あれではダメなんですかね?奇跡の小瓶」
 アルシャインがぽつりと呟いた。すると、一同から「おおーー!」と感嘆の声が漏れた。
「奇跡の小瓶を忘れていた!!確かにあれなら力を固定して携帯することができる!」
 だがジャッジメントが反論する。
「奇跡の小瓶なら力を固定することができるが、蓋を開けた瞬間に奇跡の液体は奇跡の力となって蒸散してしまう。もっと目に見える形にしろと言っているのではないか?」
 ダヴィッドが試しに小瓶を使わず奇跡を使ってみた。
「水の神!風の神!」
 するとテーブルの中央に氷ができた。水のように個体に変えることができるものは固定することができる。
「じゃあそれを水に戻すことはできるか?」
「それは……ちょっと……」
 ジャッジメントがさらに問い詰める。
「例えば火の神だ。あれを固定化したら炭の塊にしかならん。風の神は風の神をもって液体まではできるかもしれんが、個体にするには相当な力が必要になる。雷の神は蓄えておけない。それをどう固定化するかだな」
 テンパランスがふと疑問を口にした。
「そもそも奇跡や言霊を固定化して何に応用するつもりなんでしょう?兵器?医療?」
 奇跡使い達はうーんと押し黙った。自分たちの研究で凶悪な兵器を作ろうと国が考えているとしたら協力しかねる。ジャッジメントは20年前の世界大戦のことを思い出していた。
「世界大戦のときは実に多くの奇跡使い、言霊使いが戦場に駆り出されて命を落とした。再び奇跡が戦争の道具にされるのは賛成しかねるな」
 他の奇跡使いが先ほどの担当者の言葉を思い出す。
「既に魔術と科学の融合について研究が進んでいるとさっきの説明にあったが、魔術で奇跡の力を封じて科学で形にすることは可能なんじゃないか?もし戦争に使われるとしても、その兵器によって奇跡使いが前線で力を使わずに済むなら、我々の平和は守られるんじゃないか?」
「だが、兵器を使われた国は焦土と化すぞ」と、他の奇跡使い。
「危険な研究であることは間違いなさそうですね」とアルシャイン。
 翌日、進捗状況を確かめに担当者が顔を出した。奇跡使い達は待ってましたとばかりに担当者に詰め寄った。
「おい、我々は兵器開発をさせられてるんじゃないだろうな?奇跡は聖なる力だ。戦争の道具ではない」
 担当者は表情一つ変えずに答えた。
「兵器開発ではありません。技術開発です。開発された技術は国の繁栄に応用されます」
「例えば?」
 担当者はしばし黙考すると、
「集団治療室とかですかね。その部屋に怪我人や病人を連れてくるとたちどころに治癒するような技術です」
 奇跡使い達は沈黙した。そんなことが可能なのか……?
「ですから、できるだけ大きな力を固定して、大勢の人を救う力の使い方を開発してください。その力はサナトリウムのような治療施設などで応用されます」
 うまく言いくるめられたが、担当者の言うことは一理あるのかもしれない。テンパランスは一定の理解を示し、引き下がった。
「解りました……。あなたの言うことに偽りがないのならば、協力しましょう。ただし、奇跡だけで力の固定は不可能だわ。科学者と魔術師を連れてきてください。助言を仰ぎたいわ」
 担当者は僅かに微笑んだように見えた。
「解りました。その道の専門家を参入させましょう」
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