第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

「僕、戦争なんて絶対反対です!!」
 ケフィがぶんぶん首を振る。それはミルドレッドも同意見だ。
「あたしだって嫌よ。だから、言われっぱなしにやらされるのは気を付けたほうがいいわね。何を悪用されるかわからない。ベルなんか一番危険だわ。真の言霊を悪用されたらこの世が焦土と化すわよ」
 ベルは顎に手を添えて黙す。確かにベルの力は秘術として隠されるべきものだ。しばし考えた後、ベルは重くうなずいた。
「絶対に口外しないよう気を付けます」

 国の研究施設に能力者たちが集結した。ジャッジメントはポールとは別の奇跡使いを連れてきたようだ。
「ダヴィッドといいます。よろしくお願いします」
 ダヴィッドは素直そうな青年だった。爽やかに自己紹介する。
 ジャッジメントにポールのその後を訊くと、彼は謹慎中だという。あんなことがあったのだ。無理もない。
 アレキサンドライトはクリスを連れてきたがっていたが、クリスはあれ以降体調を崩し臥せっているという。アレキサンドライトもまた、彼女の事務所の古株を連れてきた。
「テレサと申します。どうぞよろしく」
 テレサは20代半ばのおっとりした女性だった。だがあのアレキサンドライトの下で長年力を磨いてきたのだ。根性はなかなか強かなものを持っているだろう。
 各々自己紹介すると、担当者から説明があった。
「ブルギス国は現在奇跡と言霊の能力に焦点を当て、科学と魔力の融合を研究しております。既に魔術については研究が進み、科学的な力を魔術で制御する方法が確立しつつあります。しかし、魔術を行使するには奇跡か言霊の力がどうしても不可欠です。奇跡、言霊、それを形に残す魔術と、その超自然の力を能力者以外が用いるための科学。この四つの力のバランスが、この国の、ひいてはこの世界の発展につながると我々は考えております」
「言うわねー。戦争に使うくせに」
 ミルドレッドは口の中で呟いた。魔術と科学と奇跡と言霊。その四つの力によって生み出されるのは、破壊兵器以外にない。
「皆さまはぜひ、奇跡と言霊の力の具現化、固定の仕方について研究していただきたいと願います」
 とある奇跡使いが疑問を述べた。
「力の固定?無理だ。奇跡とは神の力。神の力を我々のイマジネーションで操る力だ。脳が考えた形を維持し続けるのは不可能だ。それに、奇跡の力を出し続けたら能力者が疲弊して死んでしまうぞ?」
 担当者はそれを素早く切り捨てる。
「ですからそれを研究していただきたいのです」
 とある言霊使いも疑問を口にする。
「研究ったって……言霊は言葉よ?言霊のリボンは見えるけど掴めないものよ?一つ所に大人しくしている存在じゃないわ」
「ですから、それを研究してください」
 能力者たちは沈黙した。国の担当者は「それではよろしくお願いします」とだけ言うと、奇跡使いと言霊使いを別室に分け、それぞれに能力研究を任せた。
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