第五章 奇跡使いと言霊使いの能力開発

 テンパランスとミルドレッドが婚約発表して間もなくのことである。国から招集命令が各能力者の事務所に届いた。無論全能力者ではない。先日の”奇跡使い対言霊使いNo.1決定戦”の上位入賞チームのみだ。
 テンパランスは迷った。ニコを連れて行ってこの事務所を留守にするのは心許ない。奇跡の小瓶の発注にも対応できなくなってしまう。何よりこのニコがまともに能力開発に参加できるかが心配だ。慣れない環境に適応できず、暴れられたら大惨事だ。
「スター。ニコを連れて行くのは危険だと思うの。どう思う?」
「ニコが付いて行きたがるかにも依りますね。ニコ、研究機関の研究についていくかい?」
 ニコは何だか恐ろしいところかもしれないと察知した。痛いことや怖いことをされるかもしれない。ニコは怯えて首を横に振った。
「やだ。ここにいる」
「そうか。じゃあニコはお留守番だ。僕とララはしばらくこの事務所を空ける。しばらく帰れないかもしれない。奇跡の小瓶を注文通り準備して、施設の人に渡してくれるかい?」
「わかんない」
 ニコは不安に駆られた。仕方ないので、テンパランスが留守をイオナに託す。
「ニコに小瓶の内職をさせてちょうだい。受注量を作らせて、あとは施設の人に取りに来てもらうから」
「配達しなくていいんですか?」
「できないと伝えておくわ」
「それなら解りました。ニコ。私と二人暮らしだよ。一緒に二人でお仕事しようね」
 ニコはイオナと二人っきりということを理解すると、顔をほころばせてイオナを抱きしめた。
「イオナと一緒なら、いい。行ってらっしゃいテンパランス様」
 テンパランスとアルシャインは顔を見合わせて苦笑いした。
「何だか私達のことがお邪魔みたい」
 車に荷物を積み込み、テンパランスとアルシャインは首都へ向かった。二人で運転を替わりながら行けば、明日の昼頃には着くだろう。そこから宿をとり、ロングステイする。
「じゃあ、イオナよろしく。ニコ、イオナを守ってくれよ」
「行ってくるわね」
「行ってらっしゃい、テンパランス様、アルシャインさん」
「お気をつけて!ニコのことは任せてください!」

 ミルドレッド達はケフィとベルを連れてゆき、エラとニナが留守を預かることになった。ガイは招待されていないが、ミルドレッドの身の回りのサポートをするために付いてゆく。
「二人で事務所上手く回して。ちゃんと受注とミッションと報酬の受け取りができるようになりなさい。独立への訓練だと思ってしっかりやんなさい」
「任せてくださいミルドレッド様!エラがいれば大丈夫です!」
「ちょっとニナ、私に丸投げしないでよ?!」
 ケフィはミルドレッドに今後のことを質問した。
「僕たちは何をやらされることになるんですか?」
 ミルドレッドは少し眉を顰めた。
「それが、詳しいことは施設で公開するから口外するなって言われてるの。怪しいわ。国の研究事業だというから、この国のために何かやるのね」
「なんかあぶねー兵器作らされるんじゃねーのか?」
 ガイが鋭く指摘する。
「その可能性はあるわね。なんたってあんな殺し合いをさせて選別したチームだもの。戦争になるかも」
「戦争?!」
 弟子達は口を揃えて驚いた。
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