第四章 奇跡使いと言霊使いの恋
ミルドレッドはしばし呆然とその光景を見つめていた。クリスのことがクリスだとは気づいていない。そんなことは些末なことだった。問題は自分以外の女がガイにレイプしているという現実である。
「……あ、ミルドレッド、これはな、落ち着いて聞いてくれ、これは、ちょっと訳ありなんだ」
ガイは慌ててクリスを押しのけてズボンを穿く。クリスは、まさかミルドレッド本人と直接対決できるとは思わなかったので、願ったり叶ったりだ。無論こういうケースも想定済みだが、まさかファトゥムの言霊がこうもうまくいくとは。ここで皮肉の一つもお見舞いしようか。
「あらミルドレッド様。こんな夜分にどうなさいました?せっかくイイコトしようと思っていたのに」
「あんた誰よ」
「酷い、お忘れですか?悲しいですわ。あなたの元弟子の”能無しのクリスチーナ”ですわ」
「クリスチーナ……?」
ようやくミルドレッドの脳が動き出した。あのクリスが、私を二度も裏切るというの?しかもこんな形で?ミルドレッドに沸き起こった感情は、不思議と怒りではなかった。絶望と、惨めさと、衝撃と、深い、深い哀しみ。
ガイの裏切りと、かつての弟子の二度目の裏切り。考えてみたらここ最近は裏切りばかりだ。ベルには裏切られ、屋敷を破壊された。ケフィがそれを吹き飛ばし、屋敷を更地に変えてしまった。信心深く古霊を信仰する聖職者であるミルドレッドがなぜこうも運命に裏切られ続けなければならないのか。
考えてみたら汚い仕事も多く手掛けてきた。古霊の力を悪用し、罪もない人を呪い続けてきた。それが天罰なのか。全部自分の行いが悪かったのか。これが業 か。
「何よ、みんなしてあたしを裏切るの?クリス、あなた一度ならず二度までも、しかもこんな形であたしを裏切るというの?ガイ、あんたあれっぽっちのことでこんな風に私を裏切るっていうの?信じてたのに、信じてたのに。ベルもあたしを裏切った。ケフィは屋敷ごと破壊した。その屋敷も建築屋が裏切ってばかりで、仕事も依頼者の奴らがあたしを裏切る。何よ、何よ、そんなにあたしが悪いっていうの?みんなあたしのことが嫌いなのね。そんなにあたしが憎い?確かに薄暗い汚い仕事に手を染めてきたわよ。でも仕方ないじゃない?言霊使いってそういう仕事じゃない?あたしは言霊使いよ?古霊を信仰する敬虔な聖職者よ?そのあたしが人々の願いを叶えて何でここまで恨まれなくちゃならないのよ?全部あたしが悪かったというのね?みんなあたしを悪者にするのね?わかったわよ、懺悔すればいいんでしょう?あたしの人生は間違ってた。これでいい?」
ミルドレッドの身体を恐ろしく冷たい血液が駆け巡った。全身の血が逆流するような感覚。もう、生きているのも辛い。何もかも捨てて逃げ出してしまいたい。そう、例えば、この世から。
「……あ、ミルドレッド、これはな、落ち着いて聞いてくれ、これは、ちょっと訳ありなんだ」
ガイは慌ててクリスを押しのけてズボンを穿く。クリスは、まさかミルドレッド本人と直接対決できるとは思わなかったので、願ったり叶ったりだ。無論こういうケースも想定済みだが、まさかファトゥムの言霊がこうもうまくいくとは。ここで皮肉の一つもお見舞いしようか。
「あらミルドレッド様。こんな夜分にどうなさいました?せっかくイイコトしようと思っていたのに」
「あんた誰よ」
「酷い、お忘れですか?悲しいですわ。あなたの元弟子の”能無しのクリスチーナ”ですわ」
「クリスチーナ……?」
ようやくミルドレッドの脳が動き出した。あのクリスが、私を二度も裏切るというの?しかもこんな形で?ミルドレッドに沸き起こった感情は、不思議と怒りではなかった。絶望と、惨めさと、衝撃と、深い、深い哀しみ。
ガイの裏切りと、かつての弟子の二度目の裏切り。考えてみたらここ最近は裏切りばかりだ。ベルには裏切られ、屋敷を破壊された。ケフィがそれを吹き飛ばし、屋敷を更地に変えてしまった。信心深く古霊を信仰する聖職者であるミルドレッドがなぜこうも運命に裏切られ続けなければならないのか。
考えてみたら汚い仕事も多く手掛けてきた。古霊の力を悪用し、罪もない人を呪い続けてきた。それが天罰なのか。全部自分の行いが悪かったのか。これが
「何よ、みんなしてあたしを裏切るの?クリス、あなた一度ならず二度までも、しかもこんな形であたしを裏切るというの?ガイ、あんたあれっぽっちのことでこんな風に私を裏切るっていうの?信じてたのに、信じてたのに。ベルもあたしを裏切った。ケフィは屋敷ごと破壊した。その屋敷も建築屋が裏切ってばかりで、仕事も依頼者の奴らがあたしを裏切る。何よ、何よ、そんなにあたしが悪いっていうの?みんなあたしのことが嫌いなのね。そんなにあたしが憎い?確かに薄暗い汚い仕事に手を染めてきたわよ。でも仕方ないじゃない?言霊使いってそういう仕事じゃない?あたしは言霊使いよ?古霊を信仰する敬虔な聖職者よ?そのあたしが人々の願いを叶えて何でここまで恨まれなくちゃならないのよ?全部あたしが悪かったというのね?みんなあたしを悪者にするのね?わかったわよ、懺悔すればいいんでしょう?あたしの人生は間違ってた。これでいい?」
ミルドレッドの身体を恐ろしく冷たい血液が駆け巡った。全身の血が逆流するような感覚。もう、生きているのも辛い。何もかも捨てて逃げ出してしまいたい。そう、例えば、この世から。