第四章 奇跡使いと言霊使いの恋

 ガイは迷った。だが、クリスが泣きながらどうしてもお詫びしたいというので、ガイはミルドレッドとの新居ではなく、個人的な住処にしているマンションへとクリスを連れてゆくことにした。
 クリスはガイとともに地下鉄に乗って考えた。恩を体で払ってしまえばいいかもしれない。計算は狂ったが、事態は予想よりもいい方向に進んでいるかもしれない。

「ただいまー。ガイ?疲れたんだけど」
 ミルドレッドは安アパートの自室に帰宅してガイを探した。しかし、その姿が見えない。そういえば喧嘩をしたんだっけ……。
 ミルドレッドは自分で料理を作り、一人で食べることにした。だが、一抹の不安がよぎった。あの飄々とした性格のガイが、女たらしのガイが、彼女と喧嘩したらどんな行動に出るだろう。
「浮気してんじゃないでしょうね……。そういえば、あいつ、自分のマンションはそのまま借りてるんだったわ」
 ミルドレッドはガイのマンションへ様子を見に行くことにした。ガイのマンションの合鍵は持っている。だが、なぜだろう。今度の浮気はただの浮気ではないような気がする。もう二度と彼女のもとにガイは帰ってこないかもしれない。
 ミルドレッドの心臓が早鐘を打つ。どうしてこんなに不安に駆られるのだろう。この胸騒ぎはどこから来るのだろう。
「ガイ、お願い、今更あたしの元からいなくならないで……!」

 一方クリスとガイはマンションに到着し、クリスはガイの冷蔵庫の食材を探した。
「何か簡単に作りますね☆」
「ありがとう。誰かに作ってもらうのは久しぶりだぜ」
 クリスはジャガイモを切ると油で炒めて、冷蔵庫に入っていたビール瓶とグラスを用意した。
「あんなことになっちゃったから、飲みなおしません?」

 ミルドレッドは車がガイに奪われているため、地下鉄へと走った。地下鉄から数駅行けば、ほどなくガイのマンションにたどり着く。だが、地下鉄が遠い。ミルドレッドは一気に走る足も止まり、時々歩きながら道を急いだ。
「いつも、車だから、地下鉄が、こんなに、遠いなんて」

「ガイさん、私酔っぱらってきちゃった。ふわふわします。今なら何でもできそう……」
「俺も今日は酔ったなあ。何してくれるんだ、クリス?」
 クリスはガイを押し倒すと、ズボンのベルトに手を伸ばした。
「口でご奉仕してもいいですよ……」

「ごめん、ガイ、あたしが悪かった。今までのこと謝るから、あたしを部屋に入れて……」
 ミルドレッドは地下鉄に揺られ、祈るような気持ちで車内アナウンスに耳を傾けた。
 あともう少しで、ガイのマンションに着く。マンションの最上階、10階。エレベーターから飛び出し、ガイの部屋の鍵を開ける。しかし、鍵は開いていた。
「ガイ!!あたしが悪かったわ!!帰ってきて!!」
 しかしそこにいたのは、下半身を晒したガイを組み敷く下着姿のクリスという光景だった。
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