第四章 奇跡使いと言霊使いの恋

 そして、場面はガイとクリスの取り巻きの男たちが睨み合う場面に戻る。
「んだぁーーー?!くらあーーー!!!」
 先に緊張状態を破ったのはクリスの取り巻きの男の中の一人だ。ガイを椅子から引きずり倒し、蹴りを食らわせる。予想外の方向から体勢を崩されたガイはしばらく男たちに蹴られることとなる。しかし、ガイもやられっぱなしではない。蹴る男の軸足を掴み、転倒させると、素早く体勢を立て直した。
「一人に大勢で卑怯じゃねえかよ。つるまねえと何もできねえのかもしれねえが」
 ガイは口に溜まった血を吐き出すと、勢いよく男達に殴り掛かりに行った。
 クリスは静観している。ここでガイを半殺しにして言霊で回復して恩を売れば、ミルドレッドの男であるガイを手玉にとれるだろうと計算してのことだ。
 しかし、計算外のことが起きた。ガイが予想以上に強い。男たちは片っ端からガイにやられて酒場に転がった。
「この俺に喧嘩を売ろうなんて100年早いぜ。伊達に社会の裏を渡り歩いちゃいねえんだよ」
「が、ガイさん……」
 計算が狂った。クリスは必死に今後の流れを計算しなおす。どうしたらミルドレッドを出し抜ける?
「クリス、怪我はねえか?」
 ガイが男達に背を向けてクリスに微笑んだ。すると、またも予想外のことが起きた。
「死にさらせやゴルァ!!!」
 なんと、倒れた男の一人が刃渡りの長いナイフを取り出し、ガイを背中から一突きにした。
「て……めえ……くそ、油断した……」
「キャ―――――!!!!」
 困ったのはクリスだ。ミルドレッドに一泡吹かせるための手駒であるガイを殺されるのはやりすぎだ。蘇生など言霊使いの領域ではない。それは奇跡使いの能力であり、奇跡使いの中でも禁呪にあたるのに。
「やりすぎよテディ!!殺されたら私には何もできないの!!」
「く、クリス……ごめんよ……」
 刺した男はナイフを取り落とし、倒れたガイを呆然と見下ろした。クリスはガイの息を確かめると、最大のパワーで回復の言霊を唱える。
「愛の古霊アマーレよ、死の淵に立つガイの傷を癒し給え!目を覚まして、ガイさん!」
 クリスの言霊は間一髪でガイの命を救ったようだ。ガイは吐血したが、見る見るうちに傷や怪我が修復してゆく。
「クリス、助かったぜ」
「ガイさん……ごめんなさい」
 クリスは泣き出してしまった。やりすぎた。ここまでやるつもりではなかった。
「おい、てめえら、女の子泣かせておいて、それでもこの子のお友達のつもりかよ。最低だな。クリス、もういい。泣くな。俺は大丈夫だ。お前さんは悪くねえよ」
 倒れた男たちは立場がない。話が違う。結果クリスを泣かせることになってしまった。ばつが悪くなった男たちは気絶したふりをして倒れていた。
「ガイさん、何かお詫びします。私をガイさんのお家に連れてって」
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