第四章 奇跡使いと言霊使いの恋

「いい加減にしろミルドレッド!毎日毎日愚痴ばっかり!もう沢山だ!付き合い切れねえ!」
「それはこっちのセリフよ!出てって!」
 ある日、ついにガイの堪忍袋の緒が切れ、2人は口論になった。切欠は些細なことだ。ミルドレッドが仕事の愚痴をこぼして動作が少々荒くなったことがガイの神経に障ってしまったのだ。大きな原因があったと言うよりは、小さな不満が蓄積して溢れたのだろう。実際、アパート暮らしを初めてからというもの、2人がお互いの愛を確かめたことは1度としてなかった。不満から始まり、不満に終わった。ガイが甲斐甲斐しく世話を焼いたことへの感謝もなかった。無理もない。
 ガイは1人になるために飲み屋に出掛けた。いつも通っている馴染みの飲み屋だ。すると、珍しく昔見知った顔を見つけた。かつてミルドレッドの元で修行していたクリスチーナだ。ガイは懐かしくなって声を掛けた。
「よお!久しぶりだなクリス!もう酒が飲める年になったのか?」
「ガイさん!お久しぶりです!私は今ちょうどハタチになりましたの☆」
 ガイとクリスはクリスがいなくなってからのこと、アレキサンドライトの屋敷ではみんな仲良くやっているかということなど、積もる話が尽きなかった。
 いつの間にか暗く沈んでいたガイの心もほぐれてきた。クリスが明るい性格になってくれてよかった。それは、久しぶりの朗報だった。
 と、そこへ、ガラの悪い男が数人背後に立ち、クリスに絡んできた。
「クリス。その男は何だ?」
「あ、あなたたち……」
 クリスは一瞬ガイに素早く視線を向けた。男の一人の表情がほんの少し険しくなる。
「クリス、知り合いか?」
 ガイも表情を険しくする。クリスはガラの悪い男に利用されているのではないか。
「クリス、お前は俺たちの女だろ、知らない男と口きくんじゃねえ」
 男の一人がクリスの襟首をつかんだ。ガイがその手に手をかける。
「クリスはクリスだろ。誰のものでもないだろ。お前らこそ何者だ」
 男たちとガイがしばし無言で睨み合った。
 クリスは唇を震わせて怯えているかに見えた。
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