第四章 奇跡使いと言霊使いの恋

 アレキサンドライトの屋敷ではケフィが唯一の男子ということで、彼は女子たちに引っ張りだこで可愛がられていた。
「ケフィ君、この蓋開かなーい。開けて~」
「ケフィ君、これ重ーい。持ってえ~」
「ケフィ君、今日のメイク可愛い?」
 ベルはその度わざと彼女たちのそばに近づき、無言の圧力で散らしていた。
「キャ、ベルさん!!ごめんなさい!私は大丈夫です!」
「……」
 ベルはケフィと恋人同士になったことで急に自分に自信を持つようになり、ケフィを独占せんと周囲の女たちに目を光らせていた。しかし、むやみに力は行使しない。口にした言葉はすべて言霊として力を持ってしまうベルは、迂闊に呪いの言葉を口にできないので、ただ黙して圧力をかけるのみである。
「ベルさん、助かったよ……。みんな僕に集まってきて疲れてしまうよ」
「男が珍しいんでしょうね。貴方も相手にしたらだめよ」
「断るの苦手だから、ベルさんがいつもそばにいてくれたらいいな」
「……」
 ベルはケフィが甘えてくるようになったので、複雑な心境である。頼られて嬉しい反面、もっとしっかりして欲しい気もする。まだ素直にお互い甘え合うには付き合いが浅すぎる。ベルが今まで意固地になっていたことも、彼女が幸せを心から享受できない理由かもしれない。
 ケフィをアレキサンドライトの弟子から守るのはベルだけではない。エラとニナも仲間であるケフィを守ろうと目を光らせていた。
「うちのケフィにちょっかい出さないでくれる?!」
「あたし達はあくまでもミルドレッド様の弟子なんだからね!引き抜こうとしないで!」
 屋敷を間借りしているだけのエラたちは、アレキサンドライトの弟子達に疎まれていた。中でもストレスで髪が抜けるほど拒否反応を示しているのはクリスチーナである。クリスはミルドレッドの事務所に所属していて、エラとニナに虐められ、事務所から逃げたした過去がある。その憎き敵がまた同じ事務所に来たのだ。激しいPTSDで食事も喉を通らない。
「なんでよりにもよってあの子達がうちに来るの……?許せない……。許せない……。顔も見たくないし声も聞きたくないのに」
 エラとニナが屋敷ですれ違うと、また足を掛けられて転ばされるか、毒を吐かれるかと思わず身構えてしまう。クリスはこの事務所に来てから生まれ変わったように明るく活躍していたため、周りの仲間もクリスの異変を心配していた。
「クリス、最近元気ないみたいだけど、大丈夫?あいつらが嫌いなの?」
「ええ、ちょっと苦手かな……。あの子達、めちゃくちゃ性格悪いから睨まれないように気をつけてね☆」
 クリスは無理に元気を装ったが、顔色が悪いので、彼女を慕う仲間は気が気ではない。
「クリス、あの子達に昔いじめられたんだって……。あの明るくて可愛いクリスをあんなになるまで虐めるなんてどんな奴らなの?」
「クリス可哀想。あいつら早く出ていかないかな」
 それもこれも全てミルドレットのせいだ。と、クリスは最も恨んでいるミルドレッドを始末しようと考えた。
 ミルドレッドの指示で彼女達はこの屋敷に住むことになったのである。群れを潰すなら頭を狙え。
 クリスは彼女の取り巻きの男達に声を掛け、ミルドレッドを潰そうと考えた。
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