第一話

世界の1/3を占める広大なリザット大陸。ここには、実に多種多様な人種、民族が栄えていた。
この大陸でもっとも多くの割合を占めるのが肌も髪も瞳も青い、青色(せいしょく)人種。通称青人(あおひと)。この人種は世界で一番美しいとされ、世界の人種のヒエラルキーの頂点に君臨し、世界を支配していた。
次に人口が多いのが黄色人種。通称黄人(きいひと)。黒い色素、赤い色素を持つものが中程度の色素量を持って生まれた人種で、世界各地に散らばっている。
次に多いのが薄色(はくしょく)人種で、通称薄人(はくじん)。全ての色素を持つ人種だが、高緯度に住み、色素量が少なくなるとこの人種になる。人種のヒエラルキーとしては青人に次ぐ第二位である。
次に多いのが黒色人種。通称黒人。赤道付近の暑い地域に生活し、のんびりした性格の民族が多い。
世界で最も人口が少ないのが赤色(せきしょく)人種。通称赤人(あかひと)。他の肌の色の人種との混血が進み、純血の赤人はごく限られた地域にしか存在していない。
そして、緑色(りょくしょく)人種。通称緑人(りょくじん)。この人種は種の起源が他の人間たちと異なるところから進化を遂げたとされ、瞳孔が縦に長く裂け、その爬虫類的な見た目から、他の人種から忌み嫌われ、迫害を受けることが多かった。
ただ一つ、緑人がおこした緑人と水の神を崇める宗教「拝水教(リュリノス教)」を信仰する人々だけは、緑人を神の使いとし、崇拝している。
キャメルのいる村もまた、そんなリュリノス教を崇拝する数少ない赤人の村だった。

「あたしたちの村はリュリノス教なんだよ。だから緑人に会えてちょっと嬉しい」
忌み嫌われる旅から旅への生活の中で、すっかり性格が委縮してしまったリオは、キャメルの言葉に好感を持った。
「さっきのあいつらが虐めてごめんね。まだガキだから緑人が神様の使いだって信じてないの。相手にしなくていいからね」
「気を遣ってくれてありがとう」
少しお互いのことを話し合うと、二人はすっかり打ち解けた。
キャメルは村の領主の娘で、ちょっとした貴族の家柄だった。幼いころから護身術を習い、厳しくしつけられたために、まっすぐで正義感にあふれ、喧嘩や揉め事を進んで仲裁し、また喧嘩を買っても打ち負かせられるくらい強かった。
そのため悪ガキグループが悪さをしているとすぐ駆けつけ、懲らしめるのが常だったため、悪ガキグループから恐れられていた。
しかしキャメルに助けられた子供たちは皆キャメルのことが大好きで、友人は少なくなかった。
一方、リオはというと、母は幼い頃に死に別れ、父と二人で大陸各地を旅して歩いていた。父は寡黙な人で、旅の理由などあまり多くを語らなかったが、リオは唯一の肉親である父を尊敬し、不平不満を言うこともなく、大人しく父に付き従っていた。
襤褸を纏った貧しい親子二人旅。しかも緑人。
リオたち親子は各地で冷遇され、父はその場限りの仕事で僅かな生活費を稼ぎ、迫害が強くなると職を追われ、また旅に出た。
この村に辿り着いたのはほんの偶然だった。
父はこの村にやってきて、今頃職探しをしていることだろう。
そんなお互いの境遇を話し合うと、キャメルは
「じゃあ、あたしがお父さんに話して、リオのお父さんが働けるようにしてあげるよ!」
「え!そんなことまでしてもらっていいの?」
キャメルは胸を叩いて言った。
「あたしに任せて!友達のリオのためだもん!」
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