第一話

「あの猫、さっきの子たちに虐められてたの。だから、ほっとけなくて」
そう言ってキャメルと目を合わせた少年の瞳孔は縦に長く割れ、爬虫類を思わせる緑色の瞳だった。その一見して違和感を覚える瞳に見つめられ、キャメルは初めて、少年が緑色の長い髪、薄い若葉色の肌をした緑色人種であることに気づいた。
(あ……この子、緑色だ。へぇ~。本物の緑色人種だ。初めて見た。うわ……本当に肌も髪も瞳も、緑色してる。変な感じ……)
キャメルは心の中でそう思いながら、「ふーん、そうなんだ」と、少年の話に適当に相槌を打った。
本当はキャメルの心は初めて見る緑色人種の肌や髪の色に釘付けで、少年の話など耳から素通りである。
「よいしょっと」
長時間小さくうずくまっていた少年の体はすっかり痺れていた。少年はゆっくり立ち上がると、服についた砂を払い、軽く伸びをした。
「大丈夫?怪我はない?」
キャメルが気遣うと、少年は、「大丈夫」と笑った。
緑……。緑といえば。キャメルには心当たりがあった。
「ひょっとしてあんた、この間この村にやってきたっていう……」
「あ、はい、そうです、私です」
少年は改めて自己紹介した。
「初めまして。私、リオといいます。7歳です。よろしくお願いします」
「へーっ、リオっていうの?可愛い名前ね!あたしキャメル!9歳だよ、あたしのほうがお姉さんだね!」
二人はキャアキャア飛び跳ねながら握手した。すると、キャメルは正直に思ったままを口にした。
「うわー、でも、感激だなー。あたし、緑人に会うの初めてだよ」
「!……りょく……!」
キャメルの「緑人」という言葉にリオはハッと我に返った。慌てて握られた手を離し、後ろを向いて俯く。
「ご、ごめんなさい!」
「え?ど、どうしたの?」
キャメルは突然のことに慌てた。
「本当にごめんなさい、悪気はなかったんです!私ったら緑人のくせについ貴女に馴れ馴れしい真似を……!」
今にも泣きそうなリオを、キャメルは慌てて宥める。
「えー?!な、なんで?なんで謝るの?あたし大丈夫だよ?リオは何も悪いことしてないよ?」
「え……?」
リオは恐る恐る振り返る。
「『え?』って……。だから、なんで貴方が謝るの?あたし何かした?」
リオはキャメルの疑問が呑み込めない。キャメルもリオの反応が呑み込めない。
「私、緑人なんですよ?」
「見ればわかるけど……それがどうかしたの?」
リオは驚いた。キャメルはリオを嫌ってはいなさそうだ。てっきり嫌われると思って身構えていたリオは、
「緑人が嫌いじゃないんですか?!」
と、思わず大声を出してしまった。
「え?だって……緑人は神様の子孫なんでしょ?」
「あ……ひょっとして……リュリノス教?」
キャメルの村では、緑人は水の神の子孫、青人は水の神の配偶者として崇められていた。
2/3ページ
スキ