第一話

「時間だわ、ジラフ。私、もう、行かなくちゃ」
青い肌、青い髪をした女が、何かにとり憑かれたような虚ろな目で言った。それに追いすがる緑色の髪、緑色の肌の男。
「待て、カマラ!……最後に……!」
緑色の肌の男は、自分と女の体から水分を引き出し、小さな氷の結晶を作りだした。
「……記憶の結晶だ。これを互いの魂に埋め込むんだ」
「記憶の……結晶?魂に埋め込むって……?」
記憶の結晶と呼ばれた小さな雪片は二人の間に浮かびキラキラと煌めいている。
「そうだ、これがある限り幾度生まれ変わっても互いの記憶を忘れずに持ち続けることができるはずだ」
「本当に?それじゃ、生まれ変わってもまた巡り合えるのね」
「そうだ」
男は頷いた。

生まれ変わったら、今度こそ幸せに――!

そこで風景がぼんやりと霞み、少女は現実に引き戻された。
「ああ、またこの夢だ――」

「この野郎!こうしてやる!」
「やめて……やめてください!」
赤い髪に赤い肌を持つ少女、キャメルは、小さな少年たちの喧騒を聞きつけた。また近所の悪ガキたちが弱い者いじめでもしているのだろうか。正義感に燃えるまっすぐな性格のキャメルは、声の聞こえてくるところへと走った。
「こら悪ガキども!何してる!?」
キャメルがやってくるところを見ると、悪ガキたちはばつが悪そうな顔をして怯えた。
「ゲッ、キャメルだ!」
少年たちは慌てて言い訳をする。
「こ、これは違うんだぞ、こいつが先に俺たちに食って掛かってきたんだぞ!」
「俺たちは弱い者いじめなんかしてないぞ!」
しかしキャメルにはその構図が弱い者いじめ以外の何にも見えなかった。
「うるさい!悪い奴にはこうだ!」
キャメルは腰に下げた短刀を引き抜き、ぶんぶん振り回した。本当に斬るつもりではない。脅しだ。しかし少年たちはキャメルの短刀が無くても、彼女には喧嘩でいつも負けるのが分かっているので、武器で脅されただけでも十分効果があった。
「あぶねーよキャメル!クソッ、覚えてろよクソガキ!」
少年たちは皆捨て台詞を吐いて逃げていった。
「全くあいつら……。君、大丈夫だった?」
「あ、はい」
虐められていた少年は恐る恐る顔をあげると、キャメルに微笑んだ。
「ほら、お逃げ」
少年が小さくうずくまって庇っていたのは、小さな子猫だった。少年が抱える腕を開くと、子猫はよちよち彼の膝から飛び降り、勢いよく逃げていった。
「……猫?」
「うん」
二人は茂みの奥に逃げていく子猫を見送った。
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