水になったボア

その世界には月が6つある。
朝日とともに一日を告げる「かはたれ月」。
正午を告げる時に昇る「午の月」。
一日の終わりを告げる「たそかれ月」。
夕餉の葡萄酒を酌み交わす時に昇る月「葡萄酒月」。
日付の変更を告げる月「子の月」。
草木も眠る深夜に昇る「丑の月」。

そして、人の肌も6種類の色がある。
世界で最も美しいとされ、支配階級に位置する、青い色素を持った人種、青色せいしょく人種。通称青人あおひと
赤い色素、または黒い色素を中程度持ち、黄色い肌をした人種、黄色人種。通称黄人きいひと
黒い色素を持ち、赤道付近の暑い地域に生活し、陽気な気質を持つ人種、黒色人種。通称黒人こくじん
赤い色素を持つが、多人種との混血が進み、純血の人口は数少なくなっている、絶滅の危機に瀕する人種、赤色せきしょく人種。通称赤人あかひと
全ての色素に存在するが、高緯度の寒い地域に生活し、色素が薄いため白い肌を持つ薄色はくしょく人種。通称薄人はくじん
そして、種の起源が他の人類と違うとされ、緑色の色素を持ち、瞳孔が縦に長く裂けた目を持つ、緑色りょくしょく人種。通称緑人りょくじん

この世界でもまた人種差別や民族、宗教の対立で争いは絶えなかった。
とりわけ、世界の陸地の1/3を占める、この世界最大の大陸リザットではその問題は深刻だった。

このリザット大陸で、一人の緑人の男がある宗教を興した。
リザット大陸の中心に位置する世界最大の湖「リザトイエス湖」。その湖の水を司る神「リュリノス神」を崇拝する宗教「リュリノス教」である。
この物語は、やがてリザット大陸最大の宗教へと発展するリュリノス教の、始まりと言い伝えられている神話である。

この神話の真偽は、現人神として永遠の時を生きる神の子・「水の子」のみが知るところである。
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