渡り鳥の眠る時編

私達の生活も何年か経ち、私ももう体が不自由になってくると、私はよく昔を思い出すようになりました。
今までの人生、実に沢山のことがありました。
最近のことは全然思い出せないのに、昔のことは昨日の事のように思い出せます。
私は回顧録を纏めることにしました。
名も無いしがない吟遊詩人の私の人生に、興味を持つ人などいないと思いますが、それなりに波乱万丈の人生、書き留めておこうと考えました。
それから、基本は口伝とされている歌の数々も、文章に起こそうと思いました。
私は毎日机に向かい、ペンを走らせ続けました。
こうして書いてみると、私の人生は創作詩と同じぐらい、面白い人生だったなと感じます。
私の作った歌の数々も、読み返してみると愛着が湧きます。
そして隣にはいつもクロエがいる。未だ現役でパワフルに絵を描き続けている。
私は、今、とても幸せです。



朝、あたしがアルヤを起こしに行くと、アルヤは既に冷たくなっていた。
右手にペンを握ったまま、眠るように固くなっていた。
あたしはアルヤの回顧録を読んで、涙が止まらなかった。アルヤ、こんなこと1個も言ってくれなかったじゃないか。
あたしはアルヤの作った歌の数々も読んだ。どれも心にくる歌ばかりだ。
あたしの絵ばかり売れてもしょうがないじゃないか。アルヤはこんなに素晴らしい話が書けるんだ。これも売れるべきだよ。
あたしはアルヤが書き残した話の数々を出版社に持ち込んだ。
本になるかどうかはわからないけど、取り合ってくれたよ。
そして、あたしはアルヤを墓に葬った。金はたんまりあったから、大きな墓を立ててやった。
あたしはアルヤと結婚できて、幸せだったよ。もっと早く結婚したかったけど、そしたら子供が持てなかっただろうから、きっとこれで良かったんだよね。
ありがとう、アルヤ。あたしもまもなくあとを追っかけるから、先に行って待ってておくれ。
アルヤ、安らかに。

R.I.P.
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