無性の天使編

 二人で旅をするようになって初めてのふかふかのベッド。私たちは、ベッドに背中から飛び乗って、お腹がよじれるほど笑いました。
 「まさかあんな高値で売れるとは思わなかったぜ!さいっこうの気分だ!!」
 「私も嬉しいですよ、エマノエル。まさか私がそんなに受けるとはね!」
 「アルヤ様様だぜ、相棒!!あんた本当に最高だよ!!まさに俺の天使だ!」
 エマノエルは私のベッドに飛び乗ってきて、私に覆いかぶさり、キスをしてきました。
 「エマノエル?」
 私が驚くと、彼女は、
 「俺、本当はクロエっていうんだ。クロエって呼んで」
 と言いました。なんだか私も改めて名乗らなければならない気持ちになり、
 「私はレオナルドです」
 と、名乗りました。
 「意外に男らしい名前なんだな」
 「貴女こそ、意外に可愛らしい名前ですね」
 私たちは笑い合いました。
 「どうしてエマノエルなんて名乗ったんですか?」
 私が訊くと、彼女は、
 「昔好きだった人の名前を取ったんだ。女流画家じゃ売れないから、男になる必要があった」
 と言いました。なぜだか、私の心がちくりと痛みました。

 正直に言いましょう。私は彼女のことが、クロエのことが、好きになっていました。
 アガサのことは好きでしたが、アガサはどちらかというと妹のような存在で、私が恋心を抱くことは遂にありませんでした。
 しかし、クロエは私のすべてを愛してくれました。私のことを、醜い部分も含めて、美しいと言ってくれました。そんな彼女に、私が好意を抱かないわけがありませんでした。
 私は今まで旅してきた色んな美しい景色を彼女に見せてあげたい、彼女に描かせてあげたい、そう思うようになりました。
 私たちは各地を旅しながら、沢山の絵を描き、沢山の詩を書き、歌い歩き、絵を売り歩きました。
 私たちが深い仲になるのに時間はかかりませんでした。
 男であることを奪われた私と、女のままでは生きられない彼女。
 秘かに愛し合う私たちはまるで、親の目を盗んで悪戯する悪い子供のようで。
 こんな日々がいつまでも続けばいいと、私達は願いました。
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