無性の天使編

 「エマノエル、次はどんな絵を描くんですか?」
 「もう構想はできてるぜ。ズバリ、ヌードだ!」
 私は全力で断りました。
 「絶対嫌です!言ったでしょう?私は去勢された男なんです!醜いですよ!」
 するとエマノエルは嬉々として言いました。
 「そこがいいんじゃねえかよ!男でも女でもない存在。まさに天使だ!」
 「そんな綺麗なもんじゃないんですってば!絶対脱ぎませんよ!」
 「大丈夫だって!これは芸術だから!芸術だから恥ずかしくないぜ!頼むよ、脱いでくれよ!」
 「嫌です!」
 しばらく追いかけっこをしていると、彼女が根負けする前に、私の体力が尽きてきました。足がもつれて転んだところで、遂に彼女に捕まってしまいました。
 「つーかまえた。はあ、はあ、逃がさないぜえ……」
 「ひえええ……!」
 私に覆いかぶさって服を剥ぎ取ろうとするエマノエルはとても女性とは思えませんでした。怖い!
 でも、きっと彼女も私の古傷を見たら、嫌な気分になって諦めてくれるはず。抵抗する余力も残っていなかった私は、されるがままになって、大人しく裸にされました。しかし。
 「美しい……」
 彼女の口から洩れた言葉は、私の予想とは正反対の言葉でした。
 「醜い、でしょう?」
 「いや、その歪な形が、美しいよ。痛々しさと、生命力からの、造形美を感じる」
 あまりにもまじまじと見つめられたので、私は恥ずかしくなって、慌てて隠しました。そんなに見られたら、いくら不完全な私でも、膨張してしまいます。
 「もっとよく見せてくれよ!観察しないことには、絵に描けないだろ!」
 「そんなに観察しないでください!私は石像じゃない、人間です!生きてるんです!その、私だって、反応してしまいます……」
 エマノエルは私の言わんとしていることが理解できないようでしたが、しばらくして「あっ!」というと、「ごめん、もういいよ」と、私を押さえつける手を放してくれました。
 「でも、決めたよ。やっぱりあんたのヌードを描きたい。タイトルは、『無性の天使』だ。大丈夫。恥ずかしくないように、人気のないところで裸になってもらうから」
 私がどんなに拒否しても、彼女は諦めてくれませんでした。「これは芸術だから」それが彼女の口癖になり、私は肌寒い思いをすることになりました。

 この新しい絵も、画商は甚く気に入ったようでした。そして、前回の絵の評判も興奮気味に語りました。
 「今回もまた素晴らしい出来じゃないか!あの絵はあっという間に売れたよ!もっと値段吊り上げておけばよかったよ。いやー素晴らしい、この天使のシリーズは。もっと描いてくれ!どんどん高く買ってやるから!」
 今回はさらに高値で売れたようです。有頂天になったエマノエルは、私をちょっといい宿に泊めてくれました。
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