アガサ編
それからアガサは、傷心を引きずりながらも懸命に踊り、各地で成功を収めてきたそうです。各地で身寄りのない子供たちを拾い、いつしか大所帯になりました。
やがてアガサは観客として見に来た男性と知り合い、結婚したそうです。それは碧い目をした、金髪の、鼻の高い男性だそうです。いつも優しく微笑んでいるような、穏やかな人だそうです。
やがて二人の間には、赤ちゃんが生まれたそうです。元気な男の子だそうです。
でも、アガサはいつも遠くを見て、何か考え事をしていることが多かったといいます。何を考えているのかを問うと、決まって彼女は、「昔のことを思い出していた」と答えたそうです。
そして、各地の興業の合間に、いつも誰かを捜しては、落胆していたそうです。
私とアガサが別れてから、何年経ったでしょう。私がとある小さな町で歌を歌っていたときのことです。遠くから、がやがやと賑やかな音楽が聞こえてきました。どこかの楽団が興行をしに来ているのでしょうか。
どこか聞き覚えのある、懐かしい調べです。
「どうしたんだい、詩人さん、もうおしまいかい?」
お客様に声を掛けられて、私はハッと我に返りました。いつの間にかその音楽に耳を傾けてぼうっとしていたようです。
「失礼しました。どこかから素敵な音楽が聞こえてきたもので」
するとお客様の一人が教えてくださりました。
「あれはジプシーの楽団だよ。各地で身寄りのない子供を拾って仲間にしているらしいよ」
「そうなんですか」
私は、そんな楽団があるんだな、と少し頭の隅に引っ掛けて、また歌の続きを歌いました。
すると、
「アルヤ?!アルヤなのね?!」
と、妙齢の金髪の派手な女性が私に駆け寄ってきました。
「あ、あなたは……」
「あたしよ、アガサよ!!会いたかった、ずっと、ずっと……!」
その女性はすっかり魅力的な大人の女性に成長した、アガサでした。
「何年振りでしょう。お久しぶりです。すっかり美しくなりましたね」
「何年振りだろう。わかんない。でも、あたしずっとアルヤを捜していたよ。いつも、新しい街に行くと、アルヤが居ないかなって」
すると、楽団の仲間たちがわあっと駆け寄ってきました。
「お父さんだ!!久しぶり!!」
「最初のお父さんだ!!覚えてますか、私を!?」
あのちびっ子たちが、皆すっかり大人になっていました。
「話したいことがいっぱいあるの!ねえアルヤ、今夜はあたしたちのテントに泊まってよ!あたしたち、すごく稼ぐんだよ!大人気なの!ねえ、ご馳走してあげる!」
その夜は朝まで語り明かしました。皆本当に幸せそうでした。私の決断は間違っていなかった。私が居なくても、皆は逞しく生き、自分たちの最高の幸せを見つけてくれました。私達はまたいつかどこかで会うでしょう。その時、どんな表情を見せてくれるのか。私はまだ生きているのか。その時が楽しみでなりません。
私はこれからもずっと歌を歌い続けますよ。だから、また逢うその日まで。お元気で。
Finis.
やがてアガサは観客として見に来た男性と知り合い、結婚したそうです。それは碧い目をした、金髪の、鼻の高い男性だそうです。いつも優しく微笑んでいるような、穏やかな人だそうです。
やがて二人の間には、赤ちゃんが生まれたそうです。元気な男の子だそうです。
でも、アガサはいつも遠くを見て、何か考え事をしていることが多かったといいます。何を考えているのかを問うと、決まって彼女は、「昔のことを思い出していた」と答えたそうです。
そして、各地の興業の合間に、いつも誰かを捜しては、落胆していたそうです。
私とアガサが別れてから、何年経ったでしょう。私がとある小さな町で歌を歌っていたときのことです。遠くから、がやがやと賑やかな音楽が聞こえてきました。どこかの楽団が興行をしに来ているのでしょうか。
どこか聞き覚えのある、懐かしい調べです。
「どうしたんだい、詩人さん、もうおしまいかい?」
お客様に声を掛けられて、私はハッと我に返りました。いつの間にかその音楽に耳を傾けてぼうっとしていたようです。
「失礼しました。どこかから素敵な音楽が聞こえてきたもので」
するとお客様の一人が教えてくださりました。
「あれはジプシーの楽団だよ。各地で身寄りのない子供を拾って仲間にしているらしいよ」
「そうなんですか」
私は、そんな楽団があるんだな、と少し頭の隅に引っ掛けて、また歌の続きを歌いました。
すると、
「アルヤ?!アルヤなのね?!」
と、妙齢の金髪の派手な女性が私に駆け寄ってきました。
「あ、あなたは……」
「あたしよ、アガサよ!!会いたかった、ずっと、ずっと……!」
その女性はすっかり魅力的な大人の女性に成長した、アガサでした。
「何年振りでしょう。お久しぶりです。すっかり美しくなりましたね」
「何年振りだろう。わかんない。でも、あたしずっとアルヤを捜していたよ。いつも、新しい街に行くと、アルヤが居ないかなって」
すると、楽団の仲間たちがわあっと駆け寄ってきました。
「お父さんだ!!久しぶり!!」
「最初のお父さんだ!!覚えてますか、私を!?」
あのちびっ子たちが、皆すっかり大人になっていました。
「話したいことがいっぱいあるの!ねえアルヤ、今夜はあたしたちのテントに泊まってよ!あたしたち、すごく稼ぐんだよ!大人気なの!ねえ、ご馳走してあげる!」
その夜は朝まで語り明かしました。皆本当に幸せそうでした。私の決断は間違っていなかった。私が居なくても、皆は逞しく生き、自分たちの最高の幸せを見つけてくれました。私達はまたいつかどこかで会うでしょう。その時、どんな表情を見せてくれるのか。私はまだ生きているのか。その時が楽しみでなりません。
私はこれからもずっと歌を歌い続けますよ。だから、また逢うその日まで。お元気で。
Finis.