アガサ編
そしてついに、ある夜、アガサはテントの外に私を誘い出しました。
「ねえ、アルヤ、あたしを抱いて」
私は、遂にこの日が来てしまったか、と、夜空を仰ぎました。
「あたしの体が熱いの。アルヤのことを考えると、体の奥底が火照るの。ねえ、この火を冷まして。あたし、アルヤになら抱かれてもいい」
「アガサ、言ったはずですよ、私は男ではないんです。抱けません」
「ぜんっぜん、無いの?」
私は答えませんでした。言いたくありませんでした。
「みんな寝てる。あたし静かにするから、あたしを抱いてよ」
私は首を横に振りました。
「じゃああたしがアルヤを抱いてあげる!」
アガサは厭がる私を押し倒し、私の服を捲り上げました。
そして古傷で醜く変形した私の股間を見ると、暫し絶句していました。
おそらく彼女には、この醜さは想像もしなかったのでしょう。しかし、アガサはぎこちなく微笑むと、
「あたしはアルヤがどんなアルヤでも愛せるよ」
そう言って私の股間をまさぐり始めました。
正直、私は傷つきました。
嫌がって止めてくれた方が安心したと思います。気丈に私を愛そうとした彼女が痛々しくて、なぜだか私は逃げ出したくなりました。
「アガサ、止めてください」
「どうされると気持ちいい?」
「アガサ!」
堪らず怒鳴ってしまった私に、彼女は驚いて手を止めました。
「私はアガサのことが、一人の人間として好きです。ですが、貴女にレイプされたくはありません」
「レ……」
私の言葉に、とりわけレイプという言葉に、彼女はショックを受けたようでした。
彼女はゆっくり私から離れ、「ごめん……」と呟きました。
私は乱れた着衣を直し、何も言えずに毛布にくるまりました。
私はそのまま狸寝入りをしました。アガサが泣いているのを背中で聞きながら、何も掛ける言葉が見つかりませんでした。彼女は朝まで泣き続け、私も朝まで眠ることができず、ただ黙って時間をやり過ごしました。
その日を境に、私たちの間には見えない溝ができてしまいました。どこかよそよそしくなった彼女、心なしか冷たくしてしまう私。
このままではお客さんを楽しませることができないと思った私は、楽団から、彼女から、別れることを決意しました。
私はアガサに別れを切り出しました。彼女がいいと言ったら、みんなにも話そう、と思ったのです。
「アガサ、私はこの楽団から抜けます。私がこの楽団にいたら、いい音楽はできないと思います」
アガサは目を見開いて口をパクパクさせて驚くと、慌てて私に縋り付きました。
「そんなこと無いよ、アルヤがいなかったらいい音楽なんかできないよ」
「でも、アガサ」
「お願い、行かないで。この前のことが原因なら、謝るから。ごめんね、ごめんなさい。もうあんなことはしない。だからお願い、行かないで」
私は取り乱すアガサの両腕を掴み、アガサに目を合わせて言いました。
「アガサ、確かにあれが原因の一つだったかもしれません。でも、貴女が私を男として見てしまった時から、私はいつか別れが来る、と気づいていました。私たちは、お父さん、お母さん、と慕われていましたが、夫婦にはなれないのです。そんな関係になってはいけなかったのです。ごらんなさい、今の私達を。現に気まずくなって言いたいことも言えなくなってしまった。こんなことではいつかもっと酷い別れ方をしてしまう。私はあなたのことが人間として好きです。嫌いになりたくありません。だから今のうちに、大好きなままお別れしたいんです」
「ねえ、アルヤ、あたしを抱いて」
私は、遂にこの日が来てしまったか、と、夜空を仰ぎました。
「あたしの体が熱いの。アルヤのことを考えると、体の奥底が火照るの。ねえ、この火を冷まして。あたし、アルヤになら抱かれてもいい」
「アガサ、言ったはずですよ、私は男ではないんです。抱けません」
「ぜんっぜん、無いの?」
私は答えませんでした。言いたくありませんでした。
「みんな寝てる。あたし静かにするから、あたしを抱いてよ」
私は首を横に振りました。
「じゃああたしがアルヤを抱いてあげる!」
アガサは厭がる私を押し倒し、私の服を捲り上げました。
そして古傷で醜く変形した私の股間を見ると、暫し絶句していました。
おそらく彼女には、この醜さは想像もしなかったのでしょう。しかし、アガサはぎこちなく微笑むと、
「あたしはアルヤがどんなアルヤでも愛せるよ」
そう言って私の股間をまさぐり始めました。
正直、私は傷つきました。
嫌がって止めてくれた方が安心したと思います。気丈に私を愛そうとした彼女が痛々しくて、なぜだか私は逃げ出したくなりました。
「アガサ、止めてください」
「どうされると気持ちいい?」
「アガサ!」
堪らず怒鳴ってしまった私に、彼女は驚いて手を止めました。
「私はアガサのことが、一人の人間として好きです。ですが、貴女にレイプされたくはありません」
「レ……」
私の言葉に、とりわけレイプという言葉に、彼女はショックを受けたようでした。
彼女はゆっくり私から離れ、「ごめん……」と呟きました。
私は乱れた着衣を直し、何も言えずに毛布にくるまりました。
私はそのまま狸寝入りをしました。アガサが泣いているのを背中で聞きながら、何も掛ける言葉が見つかりませんでした。彼女は朝まで泣き続け、私も朝まで眠ることができず、ただ黙って時間をやり過ごしました。
その日を境に、私たちの間には見えない溝ができてしまいました。どこかよそよそしくなった彼女、心なしか冷たくしてしまう私。
このままではお客さんを楽しませることができないと思った私は、楽団から、彼女から、別れることを決意しました。
私はアガサに別れを切り出しました。彼女がいいと言ったら、みんなにも話そう、と思ったのです。
「アガサ、私はこの楽団から抜けます。私がこの楽団にいたら、いい音楽はできないと思います」
アガサは目を見開いて口をパクパクさせて驚くと、慌てて私に縋り付きました。
「そんなこと無いよ、アルヤがいなかったらいい音楽なんかできないよ」
「でも、アガサ」
「お願い、行かないで。この前のことが原因なら、謝るから。ごめんね、ごめんなさい。もうあんなことはしない。だからお願い、行かないで」
私は取り乱すアガサの両腕を掴み、アガサに目を合わせて言いました。
「アガサ、確かにあれが原因の一つだったかもしれません。でも、貴女が私を男として見てしまった時から、私はいつか別れが来る、と気づいていました。私たちは、お父さん、お母さん、と慕われていましたが、夫婦にはなれないのです。そんな関係になってはいけなかったのです。ごらんなさい、今の私達を。現に気まずくなって言いたいことも言えなくなってしまった。こんなことではいつかもっと酷い別れ方をしてしまう。私はあなたのことが人間として好きです。嫌いになりたくありません。だから今のうちに、大好きなままお別れしたいんです」