アガサ編
その日の夜、ジプシーの楽団のテントにお邪魔した私は、久しぶりに温かい料理をご馳走になり、歓談して、すっかり打ち解けていました。
「何か歌を歌って!私たちが行かないようなずっとずっと遠くの国の歌がいいな」
そこで私は師匠から教わった、北の果てにある国の古い叙事詩を歌うことにしました。皆さん、静かに私の歌に耳を傾けてくださいました。
「……と、こんな感じですかね。本当はもっと何日もかかるお話なんですが」
皆さんがわっと手を叩いてくださいました。
「綺麗な声。女性なのに吟遊詩人をするなんて珍しいわね」
妖艶な魅力を湛えた踊り子の一人が私にそう仰いました。じょ……女性って……私は……。
「私のことを女性と思われたんですか?困りましたね、私は男ですよ」
皆さんが仰天し、場の時間が一瞬凍り付きました。
「その顔とその声で男だなんて、あんたそりゃあお化けだよ!!」
お、お化け……。私は慌てて説明しました。
「男といっても、幼い頃に去勢されたのです。ですから、声は高いまま変わらず、もしかしたら顔も男っぽくならなかったのかもしれません」
それを聞いてやっと皆さんは納得されたようでした。
「女の子だったらあたしたちと一緒に寝られるねって思ったんだけど、男の人じゃあ、どうしようね」
座長さんの奥さんが考え込んでいると、髪を頭の上で二つのお団子にしている少女が、私の腕にしがみついて言いました。
「去勢ってことはあれが無いんでしょう?だったらあたしたちと同じ女の子でいいじゃん!あたしこの人と一緒にいたい!」
皆さんは、「それもそうだねえ。じゃあ、アルヤは女の子ということで」ということで納得されてしまいました。
い、いいんですかそれで?まあ、だからと言って男としての自覚があるかと問われたら、別にそうでもないんですけど……。
私はリュートの演奏技術と歌声を買われ、このジプシーの楽団と行動を共にすることになりました。
楽団の皆さんは私の持ち歌を気に入ってくださり、即興で伴奏を付けて新しい踊りを考えて、新しい演目に加えてくださったのです。その代わり私もこの楽団の音楽を覚え、一緒に演目を演奏することになりました。
師匠と一緒に旅をしたほかは、どこまでも孤独だった私の旅。私は初めての大勢での興業の旅に、充実感を感じました。
しかしそんな日々も束の間、ある夜、事件が起きました。
「何か歌を歌って!私たちが行かないようなずっとずっと遠くの国の歌がいいな」
そこで私は師匠から教わった、北の果てにある国の古い叙事詩を歌うことにしました。皆さん、静かに私の歌に耳を傾けてくださいました。
「……と、こんな感じですかね。本当はもっと何日もかかるお話なんですが」
皆さんがわっと手を叩いてくださいました。
「綺麗な声。女性なのに吟遊詩人をするなんて珍しいわね」
妖艶な魅力を湛えた踊り子の一人が私にそう仰いました。じょ……女性って……私は……。
「私のことを女性と思われたんですか?困りましたね、私は男ですよ」
皆さんが仰天し、場の時間が一瞬凍り付きました。
「その顔とその声で男だなんて、あんたそりゃあお化けだよ!!」
お、お化け……。私は慌てて説明しました。
「男といっても、幼い頃に去勢されたのです。ですから、声は高いまま変わらず、もしかしたら顔も男っぽくならなかったのかもしれません」
それを聞いてやっと皆さんは納得されたようでした。
「女の子だったらあたしたちと一緒に寝られるねって思ったんだけど、男の人じゃあ、どうしようね」
座長さんの奥さんが考え込んでいると、髪を頭の上で二つのお団子にしている少女が、私の腕にしがみついて言いました。
「去勢ってことはあれが無いんでしょう?だったらあたしたちと同じ女の子でいいじゃん!あたしこの人と一緒にいたい!」
皆さんは、「それもそうだねえ。じゃあ、アルヤは女の子ということで」ということで納得されてしまいました。
い、いいんですかそれで?まあ、だからと言って男としての自覚があるかと問われたら、別にそうでもないんですけど……。
私はリュートの演奏技術と歌声を買われ、このジプシーの楽団と行動を共にすることになりました。
楽団の皆さんは私の持ち歌を気に入ってくださり、即興で伴奏を付けて新しい踊りを考えて、新しい演目に加えてくださったのです。その代わり私もこの楽団の音楽を覚え、一緒に演目を演奏することになりました。
師匠と一緒に旅をしたほかは、どこまでも孤独だった私の旅。私は初めての大勢での興業の旅に、充実感を感じました。
しかしそんな日々も束の間、ある夜、事件が起きました。