籠の鳥編
「部屋に戻りなさいフィリップ!」
旦那様が怒鳴ると、坊ちゃんは旦那様に食って掛かりました。すでに、察しておいででした。
「お父様!今度はアルヤを虐めるつもりなの?!駄目だよ、アルヤだけは僕が守る!」
坊ちゃんは旦那様にドカドカ拳をぶつけましたが、旦那様は、
「子供は寝る時間だ!大人の寝床に来るもんじゃない!」
と、坊ちゃんを部屋から追い出しました。
「アルヤ!アルヤ来て!僕と寝よう!」
旦那様の陰から顔を出して私に手を伸ばす坊ちゃんに、私は応えられませんでした。きっと、ここは坊ちゃんを守るためにも、私が毅然としなければ。
「坊ちゃん、旦那様がお眠りになったら坊ちゃんのところへ向かいます。大丈夫。坊ちゃんはご寝所にお戻りください」
私がそう微笑むと、旦那様は扉を閉め、坊ちゃんを締めだしました。
翌日の朝、旦那様が遠方にお出かけになるというので、朝早くご出立なさった後。
坊ちゃんは私に、「ここから逃げて」と仰いました。
「アルヤ、きっと今までお父様に虐められていたのを、隠していたんでしょう?お父様はあんな人だもの。きっとアルヤにも同じことしてるはずだと思って」
「坊ちゃんがお気になさることではありませんよ。大人の世界は、坊ちゃんにはまだ早いです」
私は微笑みました。
しかし坊ちゃんは射抜くような目で私を見据えました。
「アルヤ、もしかして僕に気を使って守ろうとしてくれてる?それなら必要ないよ。僕、もうあの頃のような子供じゃない。僕知ってるんだ。大人になると、男と女は一緒に寝るんでしょ?そして赤ちゃんができるんでしょ?」
こんな幼い子供が、知ることではないというのに。
「そうですよ。でも、お忘れですか?私は男なんですよ。男と男が一緒に寝ても、何もすることはありません」
「嘘つかないで」
坊ちゃんは騙せませんでした。
「お父様はアルヤが男だろうが構わないで虐めてるんでしょう?ゆうべ、アルヤの悲鳴を僕聞いたんだ」
「お父様はしばらく帰ってこない。逃げるなら今だよ。大丈夫。僕が何とかする」
そういうと、坊ちゃんは埃をかぶっていた私の旅の道具と、数日分の食糧を準備するのを手伝ってくださり、使用人たちに根回ししました。
「どこへでも行って、自由におなり、アルヤ。今までありがとう。これからもずっとずっと、おじいさんになっても歌い続けてね。お父様に見つからないように、逃げて」
そして坊ちゃんはご自分のお部屋からアンドレの鳥籠をお持ちになって、アンドレを籠から出して、指に止まらせました。
「アンドレもいつまでも籠の中にいたら可哀想だ。アルヤを逃がしてあげるついでに、お前も逃がしてあげよう」
そう言うと、坊ちゃんは「それっ」と手を振り上げ、アンドレを飛び立たせました。
「またどこかで会おう。僕が大人になったころに」そういうと、坊ちゃんはめいっぱい笑って、私を送り出してくださいました。
私は坊ちゃんを抱き締め、別れを惜しみながら、後ろ髪を引かれるような思いで旅立ちました。坊ちゃんは、私もアンドレも逃がしてしまって、本当に大丈夫なのでしょうか。
ともあれ、私はまた、自由な鳥になりました。
一羽の黄色い鳥が、大空を羽ばたいて行きました。
羽のない私もまた、広い大地を羽ばたいて行きました。
旦那様が怒鳴ると、坊ちゃんは旦那様に食って掛かりました。すでに、察しておいででした。
「お父様!今度はアルヤを虐めるつもりなの?!駄目だよ、アルヤだけは僕が守る!」
坊ちゃんは旦那様にドカドカ拳をぶつけましたが、旦那様は、
「子供は寝る時間だ!大人の寝床に来るもんじゃない!」
と、坊ちゃんを部屋から追い出しました。
「アルヤ!アルヤ来て!僕と寝よう!」
旦那様の陰から顔を出して私に手を伸ばす坊ちゃんに、私は応えられませんでした。きっと、ここは坊ちゃんを守るためにも、私が毅然としなければ。
「坊ちゃん、旦那様がお眠りになったら坊ちゃんのところへ向かいます。大丈夫。坊ちゃんはご寝所にお戻りください」
私がそう微笑むと、旦那様は扉を閉め、坊ちゃんを締めだしました。
翌日の朝、旦那様が遠方にお出かけになるというので、朝早くご出立なさった後。
坊ちゃんは私に、「ここから逃げて」と仰いました。
「アルヤ、きっと今までお父様に虐められていたのを、隠していたんでしょう?お父様はあんな人だもの。きっとアルヤにも同じことしてるはずだと思って」
「坊ちゃんがお気になさることではありませんよ。大人の世界は、坊ちゃんにはまだ早いです」
私は微笑みました。
しかし坊ちゃんは射抜くような目で私を見据えました。
「アルヤ、もしかして僕に気を使って守ろうとしてくれてる?それなら必要ないよ。僕、もうあの頃のような子供じゃない。僕知ってるんだ。大人になると、男と女は一緒に寝るんでしょ?そして赤ちゃんができるんでしょ?」
こんな幼い子供が、知ることではないというのに。
「そうですよ。でも、お忘れですか?私は男なんですよ。男と男が一緒に寝ても、何もすることはありません」
「嘘つかないで」
坊ちゃんは騙せませんでした。
「お父様はアルヤが男だろうが構わないで虐めてるんでしょう?ゆうべ、アルヤの悲鳴を僕聞いたんだ」
「お父様はしばらく帰ってこない。逃げるなら今だよ。大丈夫。僕が何とかする」
そういうと、坊ちゃんは埃をかぶっていた私の旅の道具と、数日分の食糧を準備するのを手伝ってくださり、使用人たちに根回ししました。
「どこへでも行って、自由におなり、アルヤ。今までありがとう。これからもずっとずっと、おじいさんになっても歌い続けてね。お父様に見つからないように、逃げて」
そして坊ちゃんはご自分のお部屋からアンドレの鳥籠をお持ちになって、アンドレを籠から出して、指に止まらせました。
「アンドレもいつまでも籠の中にいたら可哀想だ。アルヤを逃がしてあげるついでに、お前も逃がしてあげよう」
そう言うと、坊ちゃんは「それっ」と手を振り上げ、アンドレを飛び立たせました。
「またどこかで会おう。僕が大人になったころに」そういうと、坊ちゃんはめいっぱい笑って、私を送り出してくださいました。
私は坊ちゃんを抱き締め、別れを惜しみながら、後ろ髪を引かれるような思いで旅立ちました。坊ちゃんは、私もアンドレも逃がしてしまって、本当に大丈夫なのでしょうか。
ともあれ、私はまた、自由な鳥になりました。
一羽の黄色い鳥が、大空を羽ばたいて行きました。
羽のない私もまた、広い大地を羽ばたいて行きました。