漫画とはいえ許せないんですの

普段立ち寄らない店に入る、それだけで居心地の悪さを感じる。葵は田舎者と思われないか、ドキドキと緊張していた。
「ジュースとスイーツはあっちだよ」
夕月も真緋瑠もすたすたと目的の売り場へ歩いていってしまう。
葵はとりあえず入り口側から店内を観察してみることにした。
「本まで売ってるんですのね……化粧品も売ってますわ……何でも揃うんですのね。狭いのに……」
突き当たりの壁に、おびただしいジュースの棚と、アイスのケースが並んでいる。
「見たことの無い商品ばかりですわ……美味しいのかしら。ついてゆけない……」
きょろきょろと視線を巡らせると、雑誌コーナーに気になるイラストの雑誌が陳列されていた。
「あ、可愛い。魔族の女の子かしら」
ツノの生えた少女漫画風の少女が、瞳を潤ませた表紙の雑誌である。魔族をテーマにした本かと思い、可愛い絵柄にも親近感を抱いた葵は、その雑誌を手に取ってみた。
開いてみようとしたところ、なぜかページが開けない。どうも、青いビニールテープで封印されているようだった。
「立ち読み防止策なのかしら。心の狭いお店ですわね」
ぼんやりと雑誌の表紙に目を奪われていると、夕月が真っ赤な顔で葵に駆け寄り、雑誌を奪って棚に戻した。
「何見てんの葵!この雑誌、エロ本だよ!」
声を潜ませて、夕月は葵を叱咤した。
首を傾げる葵に、夕月は溜め息をつき、説明した。
「これは、スケベな男の人が……あー……スケベな理由で読む、……スケベでヤバい本なんだ。女子高生が買っちゃいけないし、お店の人も売っちゃいけないことになってんの。こんな本読もうとしたら、あの子、どスケベなんだって誤解されるよ!」
夕月の説明を聞き、葵も顔を真っ赤に染めた。あんなに可愛い女の子の絵が、スケベな漫画にされているなんて!
葵も夕月も小走りに成人向け雑誌コーナを離れた。
「あ、葵さん、夕月ちゃん!このスイーツが、バリウマなんですの!……どうしたの?」
「ん……んんん。なんでもないよ?葵にコンビニの説明しただけ」
葵はまだ顔を真っ赤にして俯いている。
そそくさとコンビニをあとにした三人だったが、葵の頭の中では、あの魔族の少女のイラストが、どうしても忘れることが出来なかった……。

その日の夜。夕食が終わり自宅のベッドで枕に顔を埋めていた葵の頭の中で、あのイラストの少女が元気に動き回り、笑顔を振りまいていた。葵は少女漫画で多少のラブシーンは読んでいる。カッコいい少年とあの少女が薔薇に包まれてキスをしている様を妄想していた葵は、居ても経っても居られず、顔を上げ、決心した。
「そうですわ。女子高生だとバレなければ、買ってもいいはずですわ!!」
そうと決めたら、思い立ったが吉日である。
女子高生とバレないような大人びたゴスファッションに身を包み、長いフード付きマントを羽織り、フードを目深にかぶって、俯きがちにあのコンビニへと向かった。
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