【番外】NEW YEAR PANIC!

その日を境に、椚谷神社、漆沢神社の圏内では次々に奇跡が起こった。
ある者は恋愛が成就したとか、ある者は縁切りがうまくいったとか、またある者は宝くじが100万円当たったとか、就職したとか、裁判に勝ったとか、両神社に参拝した者、普段から信仰している者たちは、次々小さな幸運に恵まれた。
それぞれの神社を信仰する者は、より一層の信仰を仰ぐようになり、噂を聞きつけた信仰心のなかった者達も、どちらかの神社を贔屓に参拝するようになった。
今両神社の人々の信仰心は目に見えるほど高まり、神通力のパワーも、目に見えて高まっていった。
「お父様。最近妙にご飯がおいしいの。気のせいかしら?」
いつもより血色のいい顔になった葵が、朝ごはんの味の違いに驚いた。すると、葵の母のひなげしが、
「そういえばお父さん最近若くなったんじゃない?髪も増えたような気がする」
と、秋海棠の変化に気が付く。しかし、直接的に信仰心の影響を受けないひなげしは、何も変化がないままだ。
「そうかなあ?まあ、最近仕事でちょっと戦ってるからなあ」
「あら。戦いってどこと?」
「漆沢神社」
葵は、そういえばクラスメートに漆沢君という人がいたなあ、何か関係ある人かなあと、ぼんやり考えたが、テレビの情報番組に好きなアイドルの情報が出たので、すぐにテレビに夢中になって、そんなことは忘れてしまった。

師走。初詣の準備に追われる両神社の神通力合戦は日増しに熾烈になっていった。
こめかみに青筋を立てて、秋海棠がお守りに破魔の力を封じ込める。
「はああああああああああああ!!!!!とぉりゃああああああああああ!!!!!」
「ぬうううううううううううう!!!!!きえぇえええええええええええ!!!!!」
木蓮もまた、お守りや絵馬に神通力を込める力を緩めない。
各地に呼び出されては大幣おおぬさを振るう梯梧や津々治も、表面上は涼しい顔をしているが、疲れの色が見える。
――すべては、初詣の参拝客獲得のために――
そして、年が明けた。
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