【番外】NEW YEAR PANIC!

――2013年7月――
高校三年生となった菊池夕月は、葵の父が事務員として勤務している椚谷くぬぎたに神社を訪れた。
「おや、夕月ちゃんじゃないか。よく来たね。今日は、どうしたの?」
箒で社務所前を掃除していた秋海棠は、夕月の姿を認めると、気さくに声をかけた。
「あ、おじさん。こんにちは。今日は、もうすぐ大学の入試があるので、お参りに来ました」
「ほう?もう大学の入試があるのかい?」
「はい、七竈ななかまど大のAO入試を受けようと思って」
七竈大学のAO入試は8月に催される。剣道の経歴や体育の成績などは自慢できるのだが、筆記試験に自信のない夕月は、神頼みにすがろうというわけだ。
「そうかい。よし、おじさんが何とかしてあげよう。皆には内緒で、受からせてあげよう」
「ほんと?!マジで?!やったあ!お願いします!あ、じゃあお賽銭奮発しますよ!」
夕月は財布から千円を取り出して握りしめ、満面の笑顔を向けた。
「任せておきなさい。その代わり、頑張るんだよ」
「はい!もちろん!」

10月某日。七竈大学の合格発表があった。夕月の結果は――合格だった。
合格発表翌日、夕月は有頂天になってクラスで大はしゃぎした。
「わーーー!!受かったよ!葵!!あたし七竈大受かった!!おじさんにありがとうって言っといて!!マジありがとう!!」
葵も満面の笑みで喜んだ。葵は、角が生えたせいで大学進学を諦めたので、我が事のように親友の健闘を讃えた。
「わー!おめでとう夕月ちゃん!お父様のせいではありませんわ。夕月ちゃんが頑張ったのですわよ」
それを聞いたクラスの男子が、夕月に声をかけてきた。
「菊池、お前七竈大受かったの?マジで?」
「ああうん、受かったよ!なんかさ、受験前に葵ん家のお父さんが働いてる椚谷神社にお参りに行ったんだ。あそこにお参りすると、受かるよ!」
それを聞いたクラスメートたちが夕月の周りに集まってきた。
「マジで?椚谷神社いいの?倉地さんのお父さんがやってるの?」
「えー!!私絶対今年椚谷神社行くね、倉地さん!!」
クラス中が椚谷神社ブームに沸く中で、ただ一人、漆沢神社の息子・漆沢 竜胆うるしざわ りんどうが憎々しげに歯ぎしりをしていた。
「倉地葵……あいつ椚谷の娘だったのか……。まずいな、このままじゃうちの神社が……!」
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