【番外】君がいれば

 「あたし……あたし、見たんだ。お前が、女の子と一緒にいるところ。だから、ついにお前にも彼女ができたのかーなんて、ちょっと聞いてみたかっただけだよ」
 「ふーん」
 織田巻はそういうと、しばし沈黙した。そして、質問に問い返した。
 「もし俺に彼女がいたらお前どうするわけ?」
 「別に!どうもしないよ!ちょっと冷やかしてやろうかなーなんて、リア充爆発しろ!なーんて」
 「……」
 織田巻の瞳はずっと夕月を見つめている。射貫いている。探るように、見透かすように。
 「いないよ、彼女。あいつは、幼馴染。小学校からの」
 「そうだったんだ。へー。隠さなくていいぜ!幼馴染だって、もしかすると!ってことあるしな!」
 「お前も幼馴染だろ」
 「えっ」
 夕月は困惑した。織田巻の射貫くような眼差し、口を突いて出てくる言葉、その意図がわからない。夕月がいっぱいいっぱいで空気を読む余裕がないだけなのか。それとも。
 「なあ夕月。俺、今のお前正直嫌いだよ」
 夕月は雷に打たれたようになった。聞きたくなかった。嫌いだなんて。
 夕月が呆然として動かないので、織田巻は面倒くさそうに眼を反らして切り出した。
 「言いたいことあるならはっきりしろよ!お前らしくねえよ、今のお前!女みたいな服着だして、歯にものが挟まったみたいな言い方して、友達使って俺に探り入れて。気持ちわりいよ。気に食わねえ!男らしくねえお前なんか気に食わねえ!」
 織田巻はガシッと夕月の肩を掴むと、真っ直ぐ目を見て言った。
 「俺お前のこと好きだったんだけどなあ!今のお前大っ嫌いだぜ!」
 すると、夕月の肩に体重をかけて立ち上がり、「帰る!」と、勉強道具をまとめ始めた。
 「ま、待て、待ってくれ!ちょっと待ってくれよ!!」
 慌てて追いすがる夕月。
 「怖かったんだ!お前との友情が壊れるのも、自分がおかしくなるのも、いろんなものが怖かったんだ!」
 「……」
 「あたし、男みたいだから!女らしくないって解ってるから!だから、恋なんか、あたしらしくないって思ってたんだ!だから、織田巻のこと好きになるなんて、怖かったんだ!あたしらしくないじゃん、解ってる!あたし、どうしたらいいか、ほんとわかんなかったんだよ!」
 「やっと本音を言ったな」織田巻はゆっくり振り返った。
 「やっぱりお前、俺のこと好きだったんだな」
 夕月はしまった!と口を押えた。だが、後の祭りだ。
 「そんなこったろうと思った。だって絶対変だもん。お前らしくねえし気持ちわりいし。なんか俺のこと嵌めようとしてんじゃねえか、罠じゃねえかって思ったよ。分かりやすいんだってお前」
 そこまで見抜かれていたら、改めてちゃんと言わなければなるまい。夕月は一つ深呼吸すると、織田巻に告白した。
 「あたし、織田巻のこと好き。だけど、なんていうんだろう。彼氏とか彼女とか、そう言うの、よくわかんない。友達のままでいいよ……?」
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