【番外】君がいれば

 勉強していると、夕月の携帯がメールを受信した。送信者は真緋瑠だ。
 「彼女も好きな人もいないって」
 夕月は「ありがとう」と返信した。
 するとしばらくして、葵からメールが届いた。
 「夕月ちゃんは部活仲間だって言ってましたわ」
 「わかった」夕月は返信した。
 二人からの情報で、夕月の心は揺れに揺れた。ホッとしたような、期待してしまうような、複雑な思い。
 夕日が空を真っ赤に染め、部屋が薄暗くなってくると、夕月は部屋の電気をつけた。
 そのころ合いを見計らって、葵と真緋瑠は暇乞いをした。
 「そろそろあたくし帰りますわ。解らないことがあったらメールして」
 「私もそろそろ帰りますわ。今日はお招きありがとう」
 「あ、マジ?わかった。こちらこそありがとう」
 葵と真緋瑠の目配せに、夕月は苦笑いで返した。
 「お疲れっす」
 事情を知らない織田巻は無難に声をかけて見送った。

 二人っきりになった夕月の部屋。夕月が告白のタイミングを計りかねていると、先に口を開いたのは、織田巻だった。
 「夕月、お前そんな服着るようになったのな」
 「え?ああ、ごく最近。つか、買ったばっか。買って始めて着た。変かな?」
 織田巻は正直に「変」と言い放った。
 夕月は複雑な気持ちだ。せっかく親友が見繕ってくれたイメチェンファッションを、変の一文字で一刀両断だ。だが、確かに夕月も自分で変だと思う。
 「やっぱ変だよな。あたしもそう思う。実はさっきの友達のセンスで買ったんだ。あたしの趣味じゃない」
 「そう言うの良くないと思うぜ。自分の服ぐらい自分で買えよ」
 「うん。ごめん」
 そしてしばらくの沈黙。だが、織田巻は気づいていた。さっきの友人たちの質問攻め。きっと夕月は自分に彼女がいるか聞きたがってるんだろう。そして、夕月は自分を意識しているんじゃないか。
 「俺に何か訊きたいことっていうか、話したいことがあるんじゃないのか?」
 「えっ?」
 ペンを止めた夕月。なんでそんな話になるのだろう。もしかして独り言を言ってしまったのか。心の声が漏れてしまったのか。
 織田巻もペンを止めて、夕月の瞳を見つめた。
 「友達使って俺の事探らせるとか、そう言う卑怯な奴、俺は嫌いだな」
 「そ、そんなこと!あたしはしてない!!」
 「そうかな?急にこんな勉強会開いて、知らねえ友達におれの事探らせて、お前の作戦かなんかじゃないのかよ」
 夕月は混乱していた。葵と真緋瑠の作戦に乗って、言われたままにやったことが裏目に出た。「俺は嫌いだな」とまで言われた。もうおしまいだ。何もかもおしまいだ。
 「作戦も何も、あたしは知らないよ!あの二人が何か探ったのかよ?あたしはそんなの知らないよ!信じてくれよ!」
 「ふーん。でも、俺に何か訊きたいことがあって呼んだんじゃないのか?」
 「それは……」
 夕月は迷った。だが、すべて悟られているような気がする。口がカラカラに乾く。ジュースを一気に飲み干した夕月は、思い切って訊いた。
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