【番外】君がいれば

 葵、真緋瑠、そして夕月の三人は、喫茶店から出ると、プチプラファッションの店に立ち寄った。今持ってるお小遣いの範囲で、夕月改造計画をしようというのだ。
 「夕月ちゃんは背が高いから絶対ロングスカート!花柄の黒薔薇で!黒カーディガンと白ブラウスで、黒白黒コーデにすればいいんですわ!」
 「あら、敵は今時の女子ですわよ!ロングスカートはボーダーで決まりですわ!ドルマンニットカーデと、夕月ちゃんのお手持ちのジャケットを合わせれば……」
 いつの間にか立ち直った真緋瑠が、葵と共に店の服を次々夕月にあてがって見せる。
 「やっぱワンピースを一着持っていたほうが……!」
 「化けるためには着回し重視で上下を……!」
 しかし夕月は浮かない顔だ。おもちゃにされているような気がしてくる。
 「あたしこんなかわいいの似合わないよ……」
 『そんなことはもう言わないの!!』
 葵と真緋瑠の二人に同時に叱られ、夕月は小さく「すみません」と謝る。
 「でも、服だけ女らしくなっても、学校は制服だし、部活は剣道着だし、意味なくない?」
 「私に考えがありますわ」
 葵は魔族的な笑みを浮かべた。

 ある日曜日、夕月は織田巻を自宅に誘った。今までも織田巻が夕月の部屋にあがりこむことはあったが、高校に上がってからは変に意識してしまって、お互い呼ばなくなっていた。
 夕月は平静を装って織田巻に声をかけ、「一緒に勉強しようぜ」と誘った。
 織田巻が夕月の部屋に上がると、そこには葵と真緋瑠もいた。
 「よ、よう、織田巻。今日は女子に囲まれてよかったな!」
 どことなく、なんとなく、男ぶってしまう夕月。小学校の頃から、織田巻とは男同士のような付き合いをしてきたので、口調が知らず知らず荒っぽくなる。
 織田巻は女子だらけの部屋に緊張気味に入った。「うっす……」小さく葵と真緋瑠に会釈する織田巻。
 「あ、夕月ちゃん!織田巻君の分のコップがありませんわよ!」
 「あ、ああ、そうだな。今ちょっと持ってくる!」
 そう言って立ち上がった夕月は、見違えるほど女っぽい姿をしていた。ピンクのワンピースに、茶色のニットボレロを羽織っている。胸元にはキラキラしたレジン細工のペンダント。
 織田巻は内心「夕月、高校に上がってから変わったな」と感じた。私服を見るのも、中学生時代以来だ。
 夕月が姿を消すと、すかさず葵と真緋瑠は織田巻を質問攻めにした。
 「夕月ちゃんとはどんな関係ですの?」
 「え、別に、普通の部活友達……」
 「夕月ちゃんとはよく遊ぶんですの?」
 「え、最近はないかな…」
 「彼女っています?」
 「え、いや、いないっす」
 「好きな人は?」
 「いや、いないっす…」
 すると夕月がコップと飲み物のボトルを手に戻ってきたので、さっと織田巻から離れる二人。
 「さあ~、勉強しようぜ!真緋瑠めっちゃ頭いいからさ!」
 「お、おう……」
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