【番外】微妙な関係……?

繁華街から編集長の自宅までは、タクシーで20分の距離だ。
二人は数分黙っていたが、沈黙を破ったのは編集長だった。
「ねえ春樹」
「なんすか」
「あたしのこと…どう思ってる?」
そう訊いて、編集長は慌てて、「やっぱり怖い?悪魔っぽい?」と付け足した。
柳は「いや……べつに、そんなことは」と口を濁した。
「春樹さあ…あたしのこと、おっかないけど、仕事にはまじめだって言って、あたしらはチームだって、言ってくれたよね」
あの日の柳の台詞を、編集長は何度も脳内で反芻していた。
「あれ、すっごく嬉しかったんだよ」
柳は複雑だ。編集長が何を言いたいのかわからない。
「ねえ春樹」
「なんすか?」
「……」
「なんすか」
(あたしのこと本当に美人だと思う?あたしのこと好きになってくれる?あんたはどうおもってるの?)
喉まで出かかるものが、言い出せないで詰まる言葉なのか、飲み過ぎたせいの胃液なのか、わからなかった編集長は、ごくりと飲み込んだ。
(きっと嫌いだよね。さんざん虐めてきたもんね。とても聞けない。酒の力が弱すぎる)
「吐きそう」
「ええ?!やめてくださいよ!」
「ん、だいじょぶ」
(吐けない。そんな言葉出てこない。あたしもよく、わからない)

編集長の自宅前にタクシーが止まると、柳はタクシーを止めたまま、彼女を部屋に運んだ。
「大丈夫っすか?」
「うん。ありがと」
柳が帰ろうとすると、「春樹」と編集長がまた彼を呼び止めた。
「この女たらし!」
編集長はべーっと舌を出した。
「たらしが俺の仕事です!」
柳は苦笑した。

スグリパブリケーション重役と高根、柳、編集長は、菓子折りを持って倉地家に詫びに来た。櫻国の都心の悪魔族と魔族は、これによって停戦協定を結んだ。
編集長と柳と高根の三角関係の行方は、まだまだ先まで不透明なままだ。

END.
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