【番外】微妙な関係……?

柳は高根の隣に戻ると、先ほどより熱を込めて口説き始めた。やはり気のせいではない。高根は磨けば光る女だ。
「高根さん、今度二人で飯行きませんか?コンタクトレンズ買ってさ、髪下ろしてさ、染めてさ、女子力高いブランドの服着ましょうよ絶対可愛いって」
高根は苦笑する。
「私そういうカッコ息苦しくてやだな」
「何言ってんすか。葵ちゃんを連れてきたとき、綺麗なカッコしてたじゃないっすか。いつも着てれば慣れますって」
柳がしつこく食い下がってくるので、三十路手前の現在までモテキの来なかった高根は、だんだん悪い気がしなくなってきた。ちょっと柳のことを意識してしまう。
「う~~~~ん。じゃ、一回だけね」
「よっしゃ!」
そんな二人を、なんとなく遠巻きに眺めていた編集長は、ギリギリ歯を食いしばっていた。固くて歯の欠けそうな野菜チップスをバリバリ噛み潰し、苛立ちを隠そうとする。
(何なのよ何なのよあの二人!今まで大して口も利かなかったくせに!)
考えてみたら、なぜあの時高根を葵誘拐のために派遣したのだろう。それは、地味だったからだ。人畜無害そうな奴が必要だった。
そもそもなぜ葵を誘拐しようと思ったのか。それは柳がプッシュしてきたからだ。
なぜ柳がプッシュしてきたのだろう。そうだ、柳は美人を見つけるのがうまいのだ。
柳が美人だと思った逸材は、必ず磨けば光る。けばけばしい作り物の美人に彼は興味がないのだ。だから、彼の撮影するスナップ写真は特別受けがいい。
その彼が、高根を美人だというのならば、高根は本物の美人なのだろう。そうなると、いずれ高根は、自分を超えるようなモテ女子に…。
面白くないじゃない。そんなの。
「編集長、注文ありますか」
部屋に店員が注文を取りに来たので、応対した編集者が編集長に訊いた。
「梅酒、ロックで」

二次会が終わるころには、編集長は自分では歩けないほど酔いつぶれていた。
「編集長どうしたんですか、飲み過ぎですよ」
柳は編集長に肩を貸して、店を後にした。タクシーを止め、彼女をタクシーに押し込もうとすると、編集長は、「春樹」と、彼を呼んだ。
「ひとりにしないで」
すがるような目でこちらを見てくる。柳もどうしようか困ったが、こんなに酔いつぶれた彼女が自宅に帰るかどうか不安だし……。仕方ないので同乗することにした。
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