【番外】あなたが私に光をくれた

高校に進学すると、真緋瑠は合唱部に入った。部員数人の、最小限のメンバーしかいない、地味な部活だった。
そこで運命的な出会いをする。
一緒に入部してきた隣のクラスの倉地 葵。パートは同じソプラノだった。
しかしなぜだろう。彼女に、真緋瑠の霊感が反応する。
なぜだか彼女のそばにいると、神社に入ったような、厳かな気分になる。
真緋瑠は彼女から目が離せなくなった。
「初めまして。椿真緋瑠です。よろしく……」
「よろしく、椿さん。私は倉地葵。音痴ですので、みなさんみたいに歌えませんけど。よろしくお願いしますわ」
しかし実力は音痴どころか、とんでもない美声の持ち主だった。
讃美歌に、悪魔祓いのような神聖な力が宿っている。
真緋瑠は葵を強く意識せずにはいられなかった。どうしてもお近づきになりたい。でも、地味で不細工な私が、こんなに素敵な人の隣にいたら、彼女が虐められてしまうかも。そう思うと、彼女との距離感がわからなかった。

夏休み。合唱コンクール直前の合宿で、一年生は同じ部屋に寝泊まりすることになった。
夏の夜。皆で集まったときにやることといえば、怪談だ。
「そのとき、障子の向こうに人影が見えて、すうっと消えましたの……」
真緋瑠はとっておきの怪談を披露した。案の定、みんなはキャーッと悲鳴を上げて、震えあがっている。怪談話の時だけヒロインになれるのは、真緋瑠の専売特許だ。
しかし、その時。
「みんな、静かに!」
葵が叫んだ。
じっと表情を硬くしたまま、虚空を凝視している。
「な、何かいるの?倉地さん?」
真緋瑠も葵が見つめる先を見た。すると、人の顔のようなものが、ゆらり揺らめいて、消えた。
「……危なかったですわ。今の怪談に誘われて、このホテルの幽霊が寄ってきましたの」
「きゃーーーーーー!!!!」
「もう、もう大丈夫!私が追い払いましたから!ご安心なさって!」
騒然となる部屋の中を、葵は必死になだめた。
「そうね、いつの間にかいなくなりましたわ」
真緋瑠も冷静に分析する。
「やっぱり真緋瑠さんも見えましたの?」
「ええ、私、霊感がありますの。倉地さんも?」
葵は「ええ、ちょっと」とはにかんだ。
真緋瑠は心の底から嬉しかった。憧れの倉地さんが、私と同じくらいの霊感を持っているなんて!
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