墓場の下の姫君

二学期が始まった。葵は、登校時間だけ暑いのを我慢してニットキャップをかぶって登校したが、朝のホームルームで、担任の函部に、ニットキャップを脱いで前に出るよう言われた。
「みんな、実は、みんなに言っておかなければならないことがある。見てのとおり、倉地さんに角が生えた。遺伝的に倉地さんの家系は角が生えてしまうそうだ。今まではそれを隠してきたが、みんな、角が生えても倉地さんは倉地さんだ。いじめたり冷やかしたりしないように。一学期の下旬学校を休んでいたのは、角が生えたことで悩んでいたかららしい。皆、助け合ってくれ。な」
「皆さん、よろしくお願いしますの」
葵が深々頭を下げると、拍手が巻き起こった。角の生えたクラスメートがいる。漫画やゲームのような出来事にクラス中が色めき立った。
その日の休み時間、葵の周りは人垣ができていた。
「倉地さんマジパネエっす!カッケーっす!」
「角って触っても感覚あるの?邪魔になったりしない?」
「倉地さんの角ってちょっとあったかい!」
冷やかされるどころか、葵はすっかり崇拝の対象になっていた。
「皆さん、角が引っ掛かったときは、ごめんあそばせ」

赤とんぼの飛ぶ夕暮れ、葵と夕月と真緋瑠は、三人で喫茶店に寄り道した。いつもの三人だが、いつもとは、いつの間にか構図が違っているようだ。
「私、エンジェルキュートの赤いドレス買いましたの!」
と、真緋瑠が言うと、
「あ、私、それの青いドレス今度買おうと思ってましたの!」
と、葵。
「あたしプーランシーブスの王子コーデ買うよー」
と夕月が言うと、
「きゃー!あたくし、夕月ちゃんにエスコートしてもらってデートしたいですわ!」
と、真緋瑠。
「ずるーい!夕月ちゃんは私のものですのよ!」
と葵が言うと、
「あたくし夕月ちゃんのそばから離れませんわ!」
と真緋瑠。
「やったあ!両手に花だー!まいったね」
と、まんざらでもなさそうな夕月。
「じゃあ私と葵さんの双子が夕月ちゃんを賭けて勝負しようというんですのね!」
「望むところですわ!私は強い!」
三人の他愛もないファッショントークは、今日もなかなか終わらない。
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