皆、ごめんね、じゃなくて

一週間ぶりに顔を合わせた三人だが、真緋瑠の表情は硬かった。夕月も何か痛々しいものを見るような心境で葵を見る。葵は、二人が城に姿を現すと、玄関先で泣き崩れた。
「二人とも、もう私を許してくださいまし!私、あの時は気がどうかしてましたの!もう大丈夫だから、お願い、許して…」
真緋瑠は、汚いものを見るような目つきで葵を見下した。そこにいるのはかつてのように、高貴で柔和で妖艶な雰囲気を湛えた、得も言われぬ魅力を放っていた葵ではない。
これがあの、恋い焦がれたあこがれの葵の無残な姿なのだと思うと、吐き気がこみあげてくる。
「さ、勉強するんでしょう?時間は無くてよ。さっさとはじめましょう」
真緋瑠は冷たく言い放った。
「真緋瑠、ちゃん……」
三人を集めた夕月は居心地が悪い。
居間のテーブルに宿題の束を広げ、三人とも無言でペンを走らせ続けた。葵も夕月も何か話そうと口を開くのだが、真緋瑠の無言の圧力に、何も言えず口を閉ざす。
不意に、また葵が涙を流し始めた。
「ねえ、何が、いけなかったの?教えて?」
真緋瑠が、力を込めて机の上にペンを叩きつけて、言った。
「まだそんなこと言ってるんですの?しつこいですわよ」
「本当に、わからないの。なんで真緋瑠ちゃんはそんなに怒っているの?」
真緋瑠が顔をしかめて押し黙っているので、夕月がたまらず口を開いた。
「葵が、変わっちゃったからじゃないかな」
葵は、仕方のないことだと訴えた。今までのような私ではいられない、と。
「でもさ、葵らしくないじゃん。全然。……なんか、女王って感じだし、ちょっと、おっかないっていうか」
葵の顔がまたくしゃくしゃに歪む。と。
「そういうことじゃなくて」
と、真緋瑠がため息とともに吐き出した。
「何か言うことがあったんじゃなくって?」
「だから、ごめんなさいって――」
「それは聞き飽きたわよ!!!そうじゃないでしょう?!!」
葵の心はより一層混乱した。何を忘れているというのだろう?
「私たち、あなたのために戦ったんですのよ?悪魔とはいえ、人が死ぬところを延々見て、戦って、戦って、戦うことに慣れてないのに、頑張ったわけでしょう?夕月ちゃんなんかもっとひどいわ、人を殺せとあなたに言われたのよ?どう思うと思って?それで、あなたは何も考えないですって?何もわからないですって?どうかしてしまったわ、そんなの、葵さんじゃない。友達じゃないじゃない?!」
「あっ……!」
夕月は、気が付いた。自分の心につかえていたわだかまり。その正体。
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