私が間違っているというの?

「もしかして……葵?」
「馬鹿な……葵はまだ術の最中のはず?!一体どうして?」
聴き慣れた声が響き渡り、誰もが雷の発生源であったスタジオ後方に目を向けた。
しかし、葵かどうか、一瞬迷ったのは…。
「葵さん……その角……どうなさったの?」
彼女の額から、ドリルのように捻じれた立派な二本の角がそびえていたからである。
そして、その身に纏うファッションも、いつの間に手に入れていたのか、いつもの少女趣味のファッションより、ずいぶん成熟したイメージだ。
「フフ…来てくれたのね、≪ナデシコ≫ちゃん」
全身に裂傷を負った村主編集長が、葵の真名を呼んだ。しかし。
「≪ナデシコ≫?はて?それはどなたのことかしら?」
真名の書き変えに成功した葵は、涼しい顔をしている。
スグリパブリケーション社長は唇を噛んだ。
「貴様ら…真名を書き変えたな!しかもこの短期間でとは…!」
葵の父、秋海棠は動揺が隠せない。
「いったいどうしたんだ葵?!なぜ今この場にいる?説明しなさい!」
葵は髪を艶めかしく掻き上げた。
「ご安心なさって、お父様、皆さん。私、そんなにヤワにはできていませんことよ。フルパワーで術を行って頂いて、もう名前が完成したので、ちょっと早いけど目覚めたのですわ。そのおかげで、ほら」
バリバリ!!と、葵の手のひらから稲妻がスパークした。
「なんか、覚醒しちゃったみたいですの。どう?立派な角でしょう?」
若い体にみなぎる強大な魔力の持ち主が加勢したとみて、スグリパブリケーション側は恐れおののいた。もともとスグリパブリケーションの社員たちは中級魔族である。力の差は歴然だ。重役たち一同は示し合わせて退散しようとした。それを葵は見逃さない。自分でも制御しきれない強大な魔力を、重役たちめがけて放った。
『ぎゃあああああががががががががが!!!!!』
「逃げおおせると思わないでね」
葵は夕月に近寄り、その魔剣を握る手を掴んだ。
「夕月さん、その剣は王家に伝わる魔剣。その剣なら確実に奴らを滅することができるわ。やってくださるわね?」
「え…っ、え……?」
夕月が戸惑っていると、スタジオの入り口に複数の人間の気配がした。重役たちが負傷したせいでスタジオの結界が解けたのである。
「開いたぞ!」というかすかな声の後に、ドアが開け放たれ雪崩れ込んできたのは、スグリパブリケーションの社員たちであった。
みな口々に、「社長、部長、課長、編集長」と、重役たちの名を呼び駆け寄ってきた。
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