魔族VS悪魔族

夕月は困惑していた。てっきりスノードロップのような怪物が襲ってくるものだとばかり思って、モンスター映画で耐性を付けていたのだが、相手は人間そのものだった。人間の姿をしたものが、次々と吹き飛んで消え、また現れては襲い掛かってくる。夕月は攻撃をかわし、最後尾に逃れて呼吸を整えた。
「どうしよう。人間そのものじゃないか。あんなの斬れないよ。人殺しじゃん」
少し離れたところで、ドレスが破れるのもかまわず、スノードロップが鋭いかぎづめを振り回し、悪魔たちを八つ裂きにしていた。赤い血を全身に浴びて血まみれのスノードロップ。あの姿こそ、敵に見えてくる。
「ガアアアアア!!!!ゲヘ!グギャオオオオオオ!!!!」
敵の放つ魔力弾をものともせず、一騎当千の活躍を見せるスノードロップ。対して、自分は、何を怖気づいているのだろう。まだ一体も斬っていない。
「まひ、真緋瑠はどうしてるんだろ、戦えてるのかな?」
すると、真緋瑠は書物を片手に水を振りまいている。何をしているのかわからないが、敵はひるんでいるようだ。そこへ、鬼たちが止めを刺し、連携攻撃を繰り出しているようだ。
真緋瑠も戦っている。この場で一番強い武器を賜った自分は、一体何をしているのだろう。
夕月は魔剣を見つめて心を落ち着けようとした。すると、魔剣から光が昇ってきた。魔剣からほとばしる光が夕月を包んだとき、けたたましい罵声が頭の中に響いた。
≪この、弱虫!!私はそんな弱虫じゃないはずだろ!!≫
赤い髪を高く結い上げた、銀色の甲冑を着た西洋人が、櫻国の言葉で怒鳴っていた。
≪何も考えるな!相手は人間じゃない!家族もいない!生きてすらいない!突撃しろ、剣をただ、思いっきり叩き込め!≫
「あ、あんた誰だよ?!」
≪さあ、行け!≫
誰かに背中を強く押された気がして、夕月は飛び出した。
「う、うわああああ!!!!もう、もう、何も知るもんか!!葵のためだあああ!!!」
肉を切り、骨を断つ手ごたえに、気持ち悪くて涙が流れた。
(考えない、これは戦いなんだ、戦争なんだ、試合なんだ、考えるな!)
悪魔は八つ裂きにされるとすぐに霧のように掻き消える。そこが夕月のグロテスク耐性を救っていた。次第に彼女は感覚がマヒして行き、何体もの悪魔を斬り殺していった。

真緋瑠は悪魔祓いの祝詞を唱えながら、聖水を撒いていた。一か月熟成したなかなかの性能を持つ聖水である。
数人の鬼が、真緋瑠の弱体化サポートに目を付け、阿吽の呼吸ができていた。
しかし真緋瑠もただ弱体化させるだけでは埒が明かないことに気づいていた。
そこで、真緋瑠は作戦を変えることにした。大声で、果実の名前を列挙し始めることにした。
「ストロベリー、アップル、バナナ、キウイ、グァバ、パパイヤ、私の声を聞け!」
すると、名前に該当するレッサーデーモンたちの動きが止まり、鬼たちの攻撃をもろに食らって霧散した。
「こっちのほうが、早いみたい」
3/4ページ
スキ