変なお兄さんに捕まって逃げました

葵にとっては待ちに待っていたような、そうでもないような日曜日がやってきた。
平日よりも早起きをして、ゴスロリのドレスとメイクに気合いを入れた。
「今日はエンジェルキュートでいいかな……。真緋瑠ちゃんの誘いだし……。あ、でも、今日は最高気温低いんですわ……。プーランシーブス?うーん、面倒ですわ、いつものセルフィドにしよう!」
葵のお気に入りの老舗ブランド、セルフ・イド。魔族である葵には、そのゴシックでブラックな世界観がとても肌に馴染み、私服の半分はセルフ・イドである為、コーディネートに迷うと、葵は必ずこのコーディネートで済ませてしまう。
漆黒に包まれた喪服を思わせるトータルコーディネート。黒のアイメイクに黒の口紅を引いて、普段はひた隠しにしている魔族らしさを全開にする。
部屋から出ると、執事のギンモクセイが部屋の前で待っていた。
「姫、お車をお出ししましょうか?」
葵の「人間らしく生きたい」というワガママを尊重し、ギンモクセイや侍女達は葵の要望に応えるよういつも控えている。
「今日は思ったより早くメイクが終わりましたわ。のんびり歩いてまいります」
「かしこまりました。道中お気をつけて。何かございましたら扉を開いていつでも御呼びください」
「安心して。それでは、行ってまいりますわ」
パニエでふわふわに膨らませたスカートをゆさゆさ揺らし、葵は待ち合わせのショッピングセンターへと向かった。

ショッピングセンター333。個性的なファッションを愛する若者の聖地である。
その建物の周囲では多くの若者が待ち合わせをし、また、ストリートファッション誌の編集者も多く集まる。
今日もティーンズ向けファッション誌「Devilteen」の編集者・柳 春樹やなぎ はるきが、特集内容に合った若者のスナップを撮影しようと、張り込んでいた。
「あ、ちょっといいかな?僕はDevilteenの編集をしてるんだけど、ちょっとお写真撮らせてもらっていいかい?」
Devilteenの再来月の特集は、小悪魔ストリートファッションである。いつもと趣向を変えた特集の為、333前での取材はアウェーである。予想通り、取材を断られ続け、柳は焦っていた。
「いつもだったら玉埃町でモテモテなんだけどな……。なんで今回は333前なんだよ……。絶対こいつら俺を馬鹿にしてるだろ……」
333前にいるのが精神的にきつくなってきた柳は、ちょっと離れた場所で張り込むことにした。
すると、遠方からただならぬ闇の気を纏ったゴスロリ少女が歩いてきた。葵である。
「なんだ……?編集長みたいなオーラを感じる……。あの子、ちょっと気になるな」
柳は素早く少女に近づいた。
「君、凄く可愛いね!僕は雑誌のスナップ写真を撮ってるんだ!君のスナップを雑誌に載せてもいいかな?」
雑誌のスナップと聞いて、葵は歓喜した。憧れのスナップの取材!
「え?綺羅の取材ですの?私なんかでよろしいの?」
「あ、いや、僕はDevilteenなんだ。今回Devilteenが君のような子を探しててさ」
「デビル……ティーン……」
それを聞き、葵は凍り付いた。かねてから悪魔賛美雑誌と認識している、敵の雑誌編集か……。
魔族の葵にとって、悪魔族の国は敵国である。
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