持つべきものは友達ですわ

真緋瑠もそれは同じだった。彼女はまず自宅に帰ってから悪魔辞典を紐解き、悪魔に関する情報をまとめ始めた。
「ふーん、悪魔も葵さんのように、名前を知られると抵抗力をなくすのね。悪魔の名前は、果実の名前を名乗るのが通例……。じゃあ、適当に果物の名前を調べて呼んでいけば、何かはヒットするかもしれませんわね。でも、そんな暇はないでしょう…うーん、悪魔祓いの祝詞か…」
悪魔辞典に描かれている悪魔は、みな一様にキメラ生物のような異様な姿をしていた。こんな姿をしているものが、ティーンズ向け雑誌をセコセコ刷っているところを想像すると笑えてくる。
「でも、葵さんが騙されたくらいだから、きっと人間の姿をして見せているのですわね。とりあえず、私には武器は無いから、聖水とか、マジックアイテムは自作するしかなさそうね」
真緋瑠は期末試験のテスト範囲はすべて頭に入っている。勉強そっちのけでじっくりと悪魔研究に没頭することにした。

新月の夜が来た。葵は城の奥の閉ざされた一室に連れてこられた。素肌に白いネグリジェを一枚羽織り、部屋の中央のベッドに横たわる。
「姫、あなたはこれから、少しづつ≪ナデシコ≫ではなくなります。しかし、決してエネルギーの流れに流されてはなりません。記憶を、人格を、決して手放すことの無いよう」
数人の白装束の魔族たちが、彼女の周りを取り囲む。
白装束の一人が呪文を唱え始めると、ある者は楽器をやかましく打ち鳴らし始め、ある者は謎の液体を彼女に振りかけ始めた。その他の者たちは、呪文を唱える。
葵の意識がすうっと消えそうになる。と――――
「ま、待って下さいまし。お願いがあります」
術が中止された。
「どうなさいました?」
「私、どんな試練も頑張って耐えて見せます。だから、お願い。この術を八月いっぱいで完成させて」
白装束たちはざわめいた。
「なりません、姫。あまりに危険すぎます。あなたが二度と目覚めないかもしれませんよ?」
「やります。お願い。やって見せます。だから、フルパワーでやってください。大丈夫。私は必ず、戻ってきます」
白装束たちは顔を見合わせたが、葵が大人しく寝てくれないのを見ると、やむを得ず、フルパワーで術を展開させた。
(大丈夫。私は決して、エネルギーに流されたりしない。気を確かに持つのよ、葵。私は、マーガレット・マロウ・グラジオラス…マーガレット・マロウ…マーガレット…マロウ……何…だっけ……)
そして、葵の意識は闇の中へ落ちていった。
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