持つべきものは友達ですわ

秋海棠は、夕月と真緋瑠にも、葵の魂を書き変える秘術について語って聞かせた。
もうここまで来ると、二人とも何を聞いても驚かなくなっていた。説明を素直に受け止める。
「それでは、次の新月が来たら、葵に秘術を施す。来年の春までお別れだ」
「それだけは嫌ですわ!」
葵が食い下がった。
「二人が戦ってくれるなら、私もいつまでも寝ているわけにはまいりません。私も戦います!」
「そういうわけにはいかん!」
「来年の春までか…。学年変わっても、あたしたちは友達だよ」
「ゆっくり術を成功させて。私たちに任せて」
「そんな…嫌よ、嫌よ…」
「葵、それでいいという話だっただろう?」
嫌々とわがままを言う葵に、夕月と真緋瑠は、彼女を抱きしめた。
「術が失敗してしまう方が心配だよ」
「葵さんが葵さんらしいままで復活するには、ゆっくり時間をかけたほうがよろしいですわ。私、今のままの葵さんがとってもす、す、好きですわ…(キャー!)」
「二人がそういうなら…。じゃあ、来年の春、お会いしましょう」
真緋瑠の渾身の告白を、しかし葵は自然にスルーした。
「頑張ってね、葵」
「頑張ってくださいまし」
「二人とも、ありがとう。ありがとう……」
そういって、二人は帰っていった。

夕月は自宅に帰ってから、竹刀袋に詰め込んでいた魔剣を取りだしてみた。そっと刃先に触れてみると、指先に痛みが走る前に、ぷつりと切れて血が滲んだ。恐ろしく切れ味がいい。
「なんか、流れで請け負っちゃったけど…。こんなの振り回したら、人、死んじゃうよな。相手は悪魔だって言うけど、悪魔って、どんな姿をしてるんだろう…」
夕月は再び竹刀袋に入れ、近所の公園へ持っていった。公園についてから、また剣を取りだし、軽く素振りしてみる。
「西洋の剣で、剣道の戦い方が通用するのかな?居合とか勉強した方がいいのかなあ…?」
その日から、一学期の期末テストも近づいているというのに、夕月は学校の勉強も手につかず、剣術の本を読み漁り、毎晩公園で剣を振るった。
この時夕月は、悪魔の姿が、スノードロップのような化け物だというイメージしかなかったのだが。
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