私の可愛いスノードロップちゃん

「聞いてのとおり、我々は魔族だ。私はもともとこの櫻国で、神職の手伝いをしながら人間と共存してきたのだよ。そこへ、今から150年ぐらい前かな、葵の母、アマランサスさん――彼女ね――が、魔界から亡命してきた」
「私たちは、何代か前の魔王が、人間をお妃に迎えて、生まれましたの。だから僅かながら人間の血が流れている。そこを、魔界の純血派が、王位にふさわしくないといって、お母様たちを皆殺しにしようとしましたの」
「私がまだ8つの時だわ。私の両親――葵のお爺ちゃんとお婆ちゃんね――が、私と数人の召使いをこの櫻国に亡命させてくれたの。絶対に彼らに見つからないように、正当なる王家の血筋を、この150年間、ひっそりとこの墓場の下に潜んで、守り続けてきたのよ」
「人間の血が入ってはいるが、正当なる魔界の魔族の王の血は、この二人にしか流れていないんだ。今魔界の魔王は真の王族の秘術を使えない。紛い物の魔王なのだよ」
まるで映画か何かのような壮大な話だ。夕月も真緋瑠も、口を半開きにしたままぽかんと話を聞くしかない。現実味が無いが、とりあえず話を聞く。
「だから、葵には絶対に魔族の血を守ってもらわなければならない。それなのにこの子ときたら……」
葵は夕月と真緋瑠に深々と頭を下げ、謝罪した。
「私、みんなに黙ってましたの。綺羅編集部だとだまされて、悪魔の雑誌編集部に、誘拐されましたの」
「ゆ、誘拐?」
「どうしてだまされたの?」
「綺羅の読者モデルにならないかと声をかけられて、私、書類を勝手に送ってしまいましたの。そしたら、誘拐されかけて……」
夕月は憤慨した。
「そうか、それで今まで元気がなかったんだね?なんで一言相談してくれなかったんだよ?!」
「私たちや、お父様お母様に相談したら、騙される前におかしいって気づいたはずですわよ?!」
真緋瑠も葵を責めた。葵の目に、涙が滲む。二人に責められたからというよりは、二人を信頼しなかった自分を責め、滲んだ涙だ。
「ごめん、ごめんなさい」
「それでだ、奴らに住所も名前も何もかも掴まれ、命が脅かされている。葵にとある秘術を施すまで、学校を休学しなくちゃならないんだ。葵にその秘術を施すと、葵に何らかの変化が起こる。もしかしたら性格や記憶が、変わってしまうかもしれないんだ。そこで、二人には葵が目を覚ましてからも仲良くしてもらえないかと、葵はそう望んでいる。そうだね、葵?」
葵はうなずいた。
「それは構いませんけど、悪魔の雑誌編集部って、どこの編集部ですの?」
「Devilteenですわ。あそこ、本物の悪魔族が雑誌を作っていましたの。奴らと魔法で戦ったんですけど、魔法がきかなくて、やっと逃げてきましたの」
「ま、魔法…?」
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