外出禁止令ですわ…

葵の居城である墓場の下の屋敷に三人が瞬間移動すると、城内は騒然としていた。
葵の「有事」という呼びかけに、侍従たちが気をもんでいたのだ。
葵の両親もすでに帰宅しており、侍従たちの報告を耳にしている。時空の歪みから現れた葵の姿を認めると、彼女の両親は葵を抱きしめた。
「大丈夫でしたか、葵?いったい何があったの?」
「お母様、お父様、ごめんなさい…大変なことになってしまって…」
そして葵とその下僕たちは、先ほどの出来事を包み隠さず打ち明けた。

「……」
墓場の下の居城、その居間に葵、葵の両親、三人の下僕たちがテーブルを囲んで座っていた。
事情を知って、葵の両親――父の名を倉地 秋海棠 千振くらじ しゅうかいどう せんぶり、母の名を倉地ひなげし、またの名をアマランサス・ポピー・グラジオラスという――は、絶句してしまった。敵の悪魔に真名を握られてしまったのである。無理もない。
どこから叱ったらいいか、二人とも困り果てて顔を見合わせた。
「……どうして……相談してくれなかったんだ、葵?」
「一言相談してくれないと、あなたはまだ子供なんだから、保護者の同意が必要なのよ?」
「……ごめん……なさい……」
下僕たち三人は黙したまま傍に持している。しかし、いずれも厳しい顔つきだ。
「あー……何から話したらいいかもわからん。櫻国人らしい名前を真名にしてしまった私たちが悪かったのか。葵に人間らしい生活をさせたのがいけなかったのか…」
秋海棠は自分を責めたい気持ちと葵を叱り飛ばしたい気持ちで揺れていた。しかし、叱り飛ばして葵に家出でもされたらそれこそ有事だ。無理やり激情を抑え込んでいるせいで、空気がビリビリ振動し、そこかしこでラップ音とポルターガイストが起き始めてている。
「あなた、まずはちゃんと言って聞かせましょう」
ひなげしが彼をなだめ、葵に向き直った。
「葵、三番目の名前は誰にも言ってはいけないと教えたはずよね?また、同じ名前の人がいても、気にしちゃいけないってことも言ったわよね?呼ばれたらどうなるかも、あなたは小さい頃覚えているはずだわ。どうして同じ名前の人について行ってしまったの?」
すると、葵は一枚の名刺を差し出した。そこには<ジュブナイルコーポレーション 花蘇芳 美樹>と書かれている。
「偽名の偽名刺を渡されましたの。本名を紹介された時も、高根としか呼ばれてなかったから」
「敵もやりおるな」
「それでも、一言相談してほしかったわ。モデルになったら、お金が関わるの。お金や権利にかかわることは、未成年は保護者の同意がなくてはやってはいけないし、保護者が管理しなくちゃいけないのよ。黙ってアルバイトや、モデルなんてこと、やっては駄目。いいわね?」
「はい……ごめんなさい」
秋海棠が大きく深呼吸をして息を吐き出すと、ガタガタと騒いでいたポルターガイストがおさまった。
「仕方ないな。葵。しばらく、お前は、外出禁止だ」
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