絶体絶命のピンチですの

ギンモクセイの渾身の呼びかけに、一瞬葵の中の僅かながら流れていた、『人間の血』が反応した。
葵は、≪葵≫の名で、『人間として』生活していたのである。
葵を操っていた呪縛が一瞬ほどけ、葵は我に返った。
「ギンモクセイ!」
「姫!」
葵は耳をふさいでギンモクセイたちのもとに駆け寄り、素早く時空の扉を開き、その中に飛び込んだ。

「くっ、あともう少しのところで、逃げられたか……」
編集長は唇を噛んだ。葵がバトルに持ち込まなければ、葵がアークデーモンでなければ、ここまで面倒なことにはならなかったはずだ。一つ一つ思いつく名前を上げていって、当てて見せ、言うことを聞かせればもっと簡単に撮影ができたのである。
小悪魔たちは戦う対象が消えたことで、編集長の指示を待った。
「編集長、今のはいったい、なんだったんすか……」
柳編集者は、部屋の隅で縮こまって傍観していた戦いが終わったのを見ると、ゆるゆると体を起こし、編集長に問うた。
高根も、自分と同じ名前を呼ばれただけで操り人形になってしまった葵の身を案じ、若干の罪悪感を感じながら編集長に問うた。
「葵ちゃんは、葵ちゃんはどうなってしまったんですか?」
編集長は頭をかきむしり髪をぐしゃぐしゃかき回すと、
「あーーーーんもう!逃げられたっっっ!!!」
と悔しさを爆裂させた。
「名前さえわかればすんなりいくはずだったのよーーっ!あの子は絶対、魔族だって思ったから!」
編集長はぶんぶんと頭を振って気持ちを切り替えると、高根をほめた。
「でもっ!高根さん、あなたがいてくれて助かったわ。これであの子は私たちの言いなり。どんな要求でも飲んでくれる操り人形よ」
「葵ちゃんは、私と名前が同じだから、あんなふうに…?」
「そうよ、あの手の子はね、名前を呼ばれると操り人形になっちゃうの。いい手駒を手に入れたわ。次は最初から名前を呼んで連れてきてあげるんだから。すべては、Devilteenの優れた誌面づくりのために……!」
小悪魔たちが霧が晴れたように消えていった。
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