悪魔の手先再び

日曜日、あの時あの少女が着ていたセルフィドが新作を発売すると聞きつけて、彼女は必ず現れるはずだと睨んだ柳は、朝から333前に張り込んだ。
333ではこの日、他のブランドも新作を発売するらしく、開店を待つ長蛇の列が出来ていた。
「並んでる子にあの子はいないな……」
並木の陰に隠れて伺っていると、全身黒装束のゴスロリ少女が現れた。フルボンネット、姫袖ワンピース、棺型バッグのロングヘアの少女。何より周囲とは一線を画す闇のオーラ。間違いない。葵である。
(あの子だ!よし……!)
柳はサッと葵の前に回り込んだ。
「こんにちは!素敵なコーデだね!写真を撮らせてもらってもいいかな?」
カメラを構えて顔を隠しながら近づいたはずだが、葵はその声色で嫌な記憶が呼び覚まされた。
「あ、あなたあの時の無礼者……!」
葵はきびすを返し逃げようとしたが、柳は写真を撮らなければ自分の首がかかっている。この際盗撮でもいいと覚悟して、彼女の前に再び回り込み、素早くシャッターを切った。
「何するの!無礼者!人を呼びますよ!」
葵は顔を覆ってフラッシュを避け、333へと逃げ込んだ。
柳の方も、人を呼ばれてはたまらない。路肩に停めていた車に飛び乗り、その場を後にした。
通行人や葵が警察を呼び、警察官が駆けつけたときには、柳の車も視界から消えていた。

写真のデータを編集部のサーバに落とし、柳は編集長に報告した。
「顔、ちょっと無理矢理撮ったんであれですが……。綺麗に写った事は写りました」
「ご苦労」
村主編集長は画像編集ソフトでデータを開くと、顔の部分がドット単位になるほど拡大して写真をくまなく凝視した。
「うーん……うまく……隠れてるけど……。ヘアピンにしては……」
「可愛いっちゃあ可愛い子でしょ?」
「それはまあ……ねえ……」
柳の意見はほとんど耳に入ってないようだった。村主編集長はやたらと写真を拡大する。
そして一枚の写真に写った白いもやを確認すると、
「これ……は……」
暫時凝視して何か考えた後、
「ご苦労。上出来よ、春樹。第二特集のテキストに戻って」
と指示した。
「は、はい……」
そして、「高根さん!」と、もう一人の編集者を呼びつけた。
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