悪魔の手先再び

雑誌出版社「スグリパブリケーション」。都心の一等地に建つオフィスビルである。
様々なジャンルの雑誌を出版している出版社だが、中でも一番有名なのが、ティーンズ向けファッションカルチャー雑誌「Devilteen」。
小悪魔的なファッションや思想に共感する若者達の一部に、コアなファンを擁している。
社内は葵が危惧するような悪魔崇拝のモチーフに彩られた……風は一切無く、雑誌のPOPや付録、ポスターなどが雑然と置かれた、ひどくゴミゴミとしたオフィスである。
Devilteen編集部のフロアの上座には、長い茶髪をゆるふわっと巻いた、眼鏡をかけた女が忙しなく業務に徹している。見た目は若いのか、結構年なのか、年齢不詳の美女だ。この女がDevilteenの編集長、村主 林檎すぐり りんごである。
村主編集長は、取りかかっていた業務に一区切りがつくと、男性編集者を一人呼びつけた。先日葵に声をかけ、警察に連行された柳編集者である。
「春樹!」
「はいぃ!!!」
先日の一件ですっかり心臓が縮んだ柳は、いつものように下の名前で編集長に呼びつけられ、悲鳴のような返事をし、編集長の元へ直行した。
「時間が出来た。先日の事、詳しく聴かせてもらうから、第六会議室に行くわよ」
「うっ……はい……」
柳は正直、警察に連行されて事情聴取された時より、この瞬間の方がよほど死にたい気分になったと言う。

「……なるほど、ただならぬオーラの子……ねえ……」
柳はあの日、警察に連行されたあと、証拠不十分で釈放されたが、厳重注意の上、スグリパブリケーションが相当手を尽くして事件の火消しに追われたらしい。
柳はそれ以来、スグリパブリケーションの親族である村主編集長の顔を一度も直視していない。己がつま先を凝視して、あの当時の事を正直に説明した。説明させられるのは2度目だが、村主は「何故その子が気になったのか、何故爆発が起きたのか」というポイントがひどく気にかかっていた。
「その子、頭にツノとか生えてなかった?」
「え?いやあ、さすがにツノは無いでしょう……。生えてたとしてもカチューシャとかじゃないっすか?」
「……………」
村主の沈黙に、また柳の心臓が縮んだ。
「その子の顔を見てみないとわからないわ。一度写真撮ってきて」
「ええーーーー!??」
柳は思いっきり嫌な顔をした。あれだけ嫌われた女の子に、写真を撮らせてもらえるとは考えにくい。しかし。
「できないの?」
「やります……」
逆らえないのが、サラリーマンの辛いところである。
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