第二十九話 ロゼッタ帰国
あれ以来ヨッケはしばしばロゼッタのことをルチアと呼ぶようになった。クラスメイトに指摘されると、「二人の間だけのあだ名だよ」と言い訳し、周囲から冷やかされていた。
ヨッケとロゼッタは周囲の公認の仲になっていた。
そんな、ある日のことである。担任の教師がロゼッタのことをルチアと呼ぶ様子を見て、何かが心に引っかかった。ルチア……どこかで聞いた名前だ。ルチア・ウェイドッター。
担任の教師は警察の前を通りかかった時、貼り紙に目を止めた。
《探しています ルチア・ウェイドッター 8歳 見かけたら警察まで》
その写真は幾分幼い顔つきだったが、間違いない。ロゼッタ・ウェイドッターと名乗った転入生である。担任の教師はすぐさま警察に駆け込み、
「もしかしたら、うちの転入生がこの探し人の少女かもしれません」
と、届け出た。
数日後、ジェイクの武器屋に警察がやってきた。
「ジェイクさん、お宅のお子さんの両親、見つかりました」
ジェイクは「ついにこの日が来てしまったか」と、無意識に苦い顔をした。
「あー、そうすか。よかった」
「お子さんに会わせていただけますか?」
「ロゼッタ―!お客さんだ!」
隣の工房で宿題を解いていたロゼッタはすぐに出てきた。
「はーい!なあ……に……」
警察の制服を着た犬族の男の姿を見て、ロゼッタは全てを悟った。弾かれたように逃げ出し、階段を駆け上がって自室に飛び込み、鍵を掛けた。
それを追いかけるジェイクと警察官。
「ロゼッタ、警察が話を聞きたいって!お前の親が見つかったらしいんだ!もしかしたら間違いかもしれねえ、話だけでも聞いてみねえか?」
「あたしの親はジェイクとアントンだもん!あたし絶対行かない!ずっとここにいる!」
「そういうわけにいかねえだろ!親御さん悲しんでるぞ!」
「悲しんでないよ!あたしいらない子だから!」
そこで警察官はジェイクを手で制し、落ち着いた声で語りかけた。
「ルチア・ウェイドッターだよね?」
ロゼッタは黙った。本名を言い当てられたら、もう逃げられない。
「誰から聞いたの?」
「君の担任の先生からね。ウェイドッターという子がうちのクラスにいますって」
担任か……。こんなことになるならヨッケに本名を教えるんじゃなかった。聞かれてしまったのかもしれない。
「君の正しい住所は、ネルドラン王国、スワネギー県、リュックブルム市だね?間違っていたらいいんだよ。答えてくれるかな」
自分の住所など覚えていないが、聞き覚えのある地名だというのはわかる。
「よくわかんない」
「お父さんの名前はトマス・ウェイド。お母さんの名前は、パトリシア・ショーンかな?」
「知らない!!」
ズバリ正解を言い当てられた。やはり夢端草の予言は当たるのだ。ついに帰るべき日が来てしまったと、ロゼッタは涙を流していた。
ヨッケとロゼッタは周囲の公認の仲になっていた。
そんな、ある日のことである。担任の教師がロゼッタのことをルチアと呼ぶ様子を見て、何かが心に引っかかった。ルチア……どこかで聞いた名前だ。ルチア・ウェイドッター。
担任の教師は警察の前を通りかかった時、貼り紙に目を止めた。
《探しています ルチア・ウェイドッター 8歳 見かけたら警察まで》
その写真は幾分幼い顔つきだったが、間違いない。ロゼッタ・ウェイドッターと名乗った転入生である。担任の教師はすぐさま警察に駆け込み、
「もしかしたら、うちの転入生がこの探し人の少女かもしれません」
と、届け出た。
数日後、ジェイクの武器屋に警察がやってきた。
「ジェイクさん、お宅のお子さんの両親、見つかりました」
ジェイクは「ついにこの日が来てしまったか」と、無意識に苦い顔をした。
「あー、そうすか。よかった」
「お子さんに会わせていただけますか?」
「ロゼッタ―!お客さんだ!」
隣の工房で宿題を解いていたロゼッタはすぐに出てきた。
「はーい!なあ……に……」
警察の制服を着た犬族の男の姿を見て、ロゼッタは全てを悟った。弾かれたように逃げ出し、階段を駆け上がって自室に飛び込み、鍵を掛けた。
それを追いかけるジェイクと警察官。
「ロゼッタ、警察が話を聞きたいって!お前の親が見つかったらしいんだ!もしかしたら間違いかもしれねえ、話だけでも聞いてみねえか?」
「あたしの親はジェイクとアントンだもん!あたし絶対行かない!ずっとここにいる!」
「そういうわけにいかねえだろ!親御さん悲しんでるぞ!」
「悲しんでないよ!あたしいらない子だから!」
そこで警察官はジェイクを手で制し、落ち着いた声で語りかけた。
「ルチア・ウェイドッターだよね?」
ロゼッタは黙った。本名を言い当てられたら、もう逃げられない。
「誰から聞いたの?」
「君の担任の先生からね。ウェイドッターという子がうちのクラスにいますって」
担任か……。こんなことになるならヨッケに本名を教えるんじゃなかった。聞かれてしまったのかもしれない。
「君の正しい住所は、ネルドラン王国、スワネギー県、リュックブルム市だね?間違っていたらいいんだよ。答えてくれるかな」
自分の住所など覚えていないが、聞き覚えのある地名だというのはわかる。
「よくわかんない」
「お父さんの名前はトマス・ウェイド。お母さんの名前は、パトリシア・ショーンかな?」
「知らない!!」
ズバリ正解を言い当てられた。やはり夢端草の予言は当たるのだ。ついに帰るべき日が来てしまったと、ロゼッタは涙を流していた。