第二十六話 行くな、アントン!

「ジェイク、何がそんなに心配なの?いつも明るいジェイクらしくないよ。ジェイクそんなに怖がりじゃなかったでしょ?」
 ロゼッタの問いに、涙の勢いとすすり泣きの勢いが増すジェイク。堪えようにも不安が強くて涙が止まらない。
「夢端草で……夢、見たんだ。初めて夢端草で夢見たあの時。そん時、アントンがいなくなってもう帰ってこない夢を見たんだ。俺はずっと、その夢が正夢にならないように黙ってた。でもずっと不安で怯えていた。正夢にならねえでくれ、頼むからって。でも、アントンは出て行っちまった。正夢になっちまった。絶対ここは食い止めようって思って必死に引き留めたのに。アントンは、アントンは……。……うわあああああああ~~~~!!!」
 ジェイクはロゼッタの小さな胸を借りて泣いた。
「あいつがいなくなったら、お前しかいねえ。でもお前も、親が見つかったらいつか帰らなくちゃならねえ。俺は、また一人ぼっちになっちまう。アントンだけは失いたくなかった。ずっとここにいてほしかった。アントンさえいれば寂しくないって思ってた。俺、また一人ぼっちになっちまうよ、ロゼッタあああ~~」
 ロゼッタはジェイクの様子を見て察した。これは敵わない。
「ジェイク、それ、アントンのこと好きってことじゃん……」
 そのセリフに、ジェイクはハッとした。このシーン、見覚えがある。夢と同じだ。デジャヴを感じて、ジェイクは泣き止んだ。
「ジェイク、それはきっと恋だよ。ジェイクは、きっとアントンに恋をしているんだよ。だから寂しいの」
「恋……俺が?アントンに?」
 ロゼッタは最近ジェイクとアントンがジェイクの部屋で一緒に寝ていることを把握していた。何をしているかまではわからなかったが、仲が良さそうだということは解る。
 ロゼッタはヨッケのことを思い出して、ここはひとつ貸しを作って譲ろうかと考えた。
「最近ジェイク、アントンといつも一緒じゃん。見てて判るよ。ジェイク、アントンのことが好きになったんだなって思った。だからね、あたし考えた。あたしが大人になるまでジェイクと結婚できないから、あたしが大人になるまではジェイクをアントンに貸してあげる。あたしが大人になったらあたしと結婚してくれるって約束してくれるなら、あたしが大人になるまでの間、ジェイク、アントンと付き合ってもいいよ」
 ジェイクは未だその交換条件が飲み込めないようだった。なんだか物のように扱われた気がするが、交際を認めてくれるらしい。
「だから泣かないでジェイク。アントンはちゃんと帰ってくるよ。今朝、アントンちゃんと帰ってくるって託けて出て行ったもん。ちゃんと帰ってくる。帰ってきたら、ちゃんとアントンに好きだって伝えるんだよ、わかった、ジェイク?」
「……はい」
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