第二十三話 どこにも行かないで

「なあ、お前たちがここにきて間もない頃、夢端草で夢見たって言ってたよな。あの時、俺、黙ってたけど、俺も夢見たんだよ」
「やっぱりジェイクも夢見てたんですね。どんな夢でした?」
「あの……それがだな、……お前がいなくなる夢だった」
「……?」
 いなくなる?こんなにジェイクを愛している僕がいなくなるだって?と、アントンは驚いた。だが、あの草が見せた夢なら遠からず現実になるかもしれない。
「俺は、どうしても行ってほしくなくて引き留めるんだけど、お前はそれを振り切っていなくなってしまうんだ。いなくなった後で、ロゼッタにこう言われるんだ『ジェイク、それはアントンのことが好きってことだよ』って」
「……」
「目が覚めてまさかと思ったよ。俺が、モモ一筋の俺が、男のアントンを好きになることなんて絶対ないって思った。でも、最近不安になるんだ。ロゼッタの夢は叶ってる。アントンが俺と結ばれるって夢も、不可抗力で叶ってしまった。次は俺の番かなって」
「ジェイク、僕がジェイクの元を去ることなんて万に一つもありません。信じてください。こんなに愛しているのに、そんな僕がジェイクの店を辞めることなんて考えられません。だから、安心してください」
 アントンはギュッとジェイクを抱きしめる腕に力を込めた。
「そうだといいけど、不安なんだ。お前がいなくなったら、銃のカスタムできる人間がいなくなるし、俺……」
(俺はまた一人ぼっちになっちまうよ)
 その本音はどうしても言えなかった。寂しさを口にしたら、いよいよアントンに降伏してしまう。イニシアチブが奪われると感じて、そんな弱音は口が裂けても言えない。既に体の弱い部分まで許しているというのに、ジェイクはどうしてもプライドを捨てられなかった。
「大丈夫です。安心してください。もしジェイクが僕のことを好きにならなかったとしても、僕の忠誠心は揺るぎませんから」
「そうか……頼むな」
 そしてその夜は、アントンに抱きしめられながら眠ったジェイクだった。
 実に久しぶりの快眠だったという。
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