第二十三話 どこにも行かないで

 アントンがシャワーから上がってジェイクの部屋に来ると、ジェイクは下着姿でこちらに背を向けベッドに横たわっていた。
「ジェイク。話って何ですか?」
 声をかけると、ジェイクはこちらに顔だけ向けて、「ああ、こっちに来い」と答えた。
「あの……あのな。すごく言いにくいんだけど……お前にしか頼めないからさ」
 アントンがベッドに腰を下ろすと、ジェイクはモジモジしながらごにょごにょ何事か話しだした。言いにくいお願いだが、どうしても伝えたい。ジェイクは意を決してアントンに向き直り、ベッドの上で土下座した。
「ま、また、この前のアレ、やってくれないか?」
「この前のアレ……?」
「あの、その…………………せ、セックス」
「えっ」
 驚いた。発情したときだけの応急処置で、二度と再び体を重ねることはないだろうと思っていたアントンは絶句した。
「あの、さっきちゃんと浣腸もした。ここに、豚の腸も買ってきた。だから、お願いだ、また、抱いてくれ。頼む」
 用意周到だ。まさか避妊具の豚の腸まで用意しているとは思わなかったので、アントンの方までかしこまってしまった。
「そ、そこまでしていただいたなら、断ることはできないです。あの、こ、こちらこそよろしくお願いします。前回と同じでいいんですよね?」
「ああ、頼む。まずは俺のを抜いてもらってだな……」
 そして、二人は再び肌を重ねた。

「どうでした……?痛くありませんでしたか?」
「ん……大丈夫だ。気持ちよかったよ」
 事後処理を済ませアントンが声をかけると、ジェイクはとろんと目を潤ませ、夢見心地で答えた。
「あれからさ……何度自分で抜いても、お前とのセックスが忘れられなくてさ。またあの快感を味わってみたいって、我慢できなくてさ。忘れられなかったんだ。どうしても。だから、もう一度、抱いてほしくて」
「……ジェイク」
「でも、やっぱり気の迷いだけじゃなかった。今回もすげえ気持ちよかった。へへ、癖になっちまうな、これ」
 アントンはベッドに横たわり、ジェイクを抱きしめた。
「なあ、また……してほしいって言ったら、嫌か?」
「嫌なわけがないです。ジェイクの為なら何だってします。僕がジェイクとのセックスを嫌がるわけがないでしょう。愛しているんです。こんなに」
「愛……か」
 そしてジェイクは、一番言いにくかったことを語り出した。
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