第二十話 ロゼッタ危機一髪(前編)

 ジェイクは夢を見ていた。そこは港町の資材置き場のようだった。資材の裏手から、競りの声が聞こえてくる。魚の競りが行われているのだろうか?ジェイクが市場に歩いていくと、売られていたのは――人間だった。
「二千!二千五百!三千!はい三千売った!」
 次々と死んだ目をした人間が引き渡されていく。その様子を見ていると、顔を痣だらけにしたロゼッタが死んだ目をして運ばれてきた。
「三千!三千五百!四千!四千五百!四千五百無いか?!」
 今にも売られてしまう……!ジェイクは競りに飛び込んでロゼッタを会場から連れ去った!
「てめえなにしやがる!」
「追え!逃がすな!」
 ジェイクは走った。ロゼッタを拘束する鎖がジャラジャラと音を立てて、ジェイクたちの居所を業者たちに知らせてしまう。
「ジェイク!助けに来てくれたのね?」
「やっぱりお前を貸し出したのは間違いだった!帰るぞ!」

 ジェイクの身体がびくっと跳ねてジェイクは目を覚ました。と、同時にアントンも目を覚まして飛び起きた。
「ジェイク!」
「ああ!」
 間違いない。あの男達は人身売買のバイヤーだ。ロゼッタが売られてしまう……!
 飛び出そうとするジェイクをアントンが引き留めた。
「待ってくださいジェイク。僕らは車を持っていない!アリッサさんに正確な居所を占ってもらいましょう。闇雲に捜しても間に合いません!」
 それも一理ある。ジェイクとアントンは武器と簡素な防具を装備してアリッサの占いの館に駆け込んだ。

「待っていました、あなた方を。準備はできています」
 占いの館に着くと、アリッサは玄関先で彼らを出迎えた。魔法の杖のようなものを携えている。
「アリッサ、ちょうどよかった!実はな」
 ジェイクが事情を説明しようとすると、アリッサはスッと人差し指をジェイクの口に当てた。
「すべて視ていました。事情は把握しています。急ぎましょう。あなた達と一緒に、霧の中を渡ります」
 すっかり忘れていたが、そう言えば繊細族は千里眼のほかにも、霧の中を渡って世界中を瞬間移動できるのだった。霧の中は繊細族と触れ合っている物ならば人間でも物資でもなんでも運ぶことができる。
「そうか!アリッサは占いだけじゃなくて霧の中も渡れるのか!助かる!俺達をロゼッタの元へ連れてってくれ!」
 アリッサはこくりと頷くと、アントンとジェイクと手を繋いで、夜更けの霧の中に紛れ姿を消した。
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