第二十話 ロゼッタ危機一髪(前編)

 客の一行はすぐに出立するというので、ロゼッタはいつもより重装備を大慌てで用意し、待ち合わせに急いだ。
「今日はどこに冒険しに行くの?」
 ロゼッタが仕事内容を確認すると、パーティーの一人が答えた。
「港町まで商品を運ぶんだ。お前さんにはその護衛をやってもらう」
「ごえいね。解った」
 そうは言ったが護衛という業務は初めてである。「護衛って何?」と首をひねりながら、「まあ、この人たちが襲い掛かってきたらやっつければいいか」と気楽に考え、蒸気自動車に乗り込んだ。
 長い、長い道程だった。
 ロゼッタは最初の方こそ気を張っていたが、談笑する仲の良さそうなパーティーの話を聞きながら車に揺られていると、いつの間にか眠ってしまっていた。
「おい」
「寝たか」
「駄目押しに魔法もかけてやろうぜ」
 パーティーの一人の、顔に戦化粧のペイントを施した妖精族の男が、ロゼッタに睡眠の魔法をかけた。
「外に運べ」
 男達は車を停めると、ロゼッタを運び出し、簀巻きにして猿轡を噛ませ、車のトランクに載せた。
「これでこの娘は死にましたっていうのか?」
「いや、バックレちまえ。二度とあの店に行かなきゃいいさ」
「なるほど」
 そして男達は港町へロゼッタを載せて蒸気自動車を走らせた。

「嫌な予感がする」
 ジェイクは忙しなくリビングをうろうろし、しきりに顔をこすっていた。
「考えすぎですよ。今までも大丈夫だったでしょう?」
 アントンがジェイクを宥めるも、ジェイクは鼻面をゴシゴシこすって鼻をすすった。
「ヒゲがビリビリするんだ。第六感があいつらはヤバいって言ってる」
「なんでそんな人にロゼッタを引き渡したんですか?」
「気のせいだと思ったんだよ!でも、やっぱり気になって……そうだ!」
 ジェイクははたと手を打って店から飛び出し、すぐにリビングに駆け上がってきた。
「夢端草!これを使って夢を見ればロゼッタの様子が分かるかもしんねえ!」
 ジェイクは軒先に再び咲いていた夢端草を摘んできた。だが、そう都合よくいくだろうか。
「その花を頼るのは危ないってアリッサが言ってましたよ?」
「今がその頼る時なんじゃねえか?繊細族みたいな千里眼を手に入れるにはこの花で夢を見るしかねえんだよ!」
 ジェイクは夢端草を花瓶に活け、パンパンと柏手を打って夢端草に拝んだ。
「頼む夢端草!!ロゼッタの居所がどうなっているか、夢に見せてくれ!」
 そしてアントンを食卓の椅子に座らせると、「おらお前も夢端草に拝んで、今すぐここで寝ろ!ロゼッタの居所を掴むんだ!」と促して、自身も食卓の席に着いて居眠りのポーズを取った。
「心配性だなあ、ジェイクは……。はいはい、おやすみなさい」
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